海外では、ノーマル艇のままではなく、カスタムして乗ることが日本よりも定着している。
日本は「カスタム=(イコール)レース」というイメージが強いが、ジェット人口が多いアメリカでは、普通のレジャーユーザーが、自分のジェットスキー(以下、ジェット)にさまざまなカスタムを施して楽しんでいる。
今回紹介するのは、コンストラクターの藤江功一氏が、レースに出場しない一般のユーザーのためにチューンナップした「シードゥRXT-X 300」である。「ジェットには、もっといろいろな楽しみ方があったほうが良い。レジャーユーザーでも、友達に負けたくないとか、人より速いマシンが欲しいという人は、少なからずいる」と、藤江氏は言う。
レースで世界チャンピオンを獲得するためのマシンなら、改造費も莫大になるうえに壊れる確率も高まる。しかし、データに基づいた範囲内の改造であれば、壊れないし、ノーマル艇以上の楽しさが味わえる。
今回、紹介するカスタム艇「RXT-X 300」は、誰でも入手できる市販パーツのみで製作されている。これを使えば、壊れず速いマシンが手に入るのだ。
マシンを造るうえで、「どのパーツを組み合わせたら壊れない」という情報は、チューナーは言いたがらない。長い時間と金額をかけてデータを取っているので、その組み合わせは、ある意味、企業秘密なのだ。
しかし、今回「壊れなくて、安価で速いマシンを、多くのユーザーに体験して欲しい」という気持ちから、全部、公表してくれるという。
現在のランナバウトは、市販艇でも十分に速い。わざわざ改造して、壊れる確率を上げる意味などない。だが、きちんとしたチューナーにこのレベルのカスタムをお願いした場合、壊れにくいうえに、速くすることが可能なのだ。
現代のカスタムの基本的な考え方は、「ECUの書き換えにより、ノーマルのコンピュータプログラムを変更する」ことがベースだ。
ECUを書き換えることで、ガソリンの噴射量を上げたり、エンジンの効率をパワーアップさせる。その指令に対応できるパーツを組み込んだり交換するのが、現代のチューニングなのだ。
ノーマル艇のRXT-X 300のエンジン最高回転数は7,800回転。ECUを書き換えることで、9,500回転くらいまで上げられる。それにより、最高速も140km弱まで上げることが可能となる。
エンジンパワーを上げることで、足回りなどのパーツも変更する必要があるが、腕のいいチューナーは、どのパーツを組み合わせればいいかというデータを全て持っている。
今回、市販最速の「RXT-X 300」に試乗する機会を得た。乗る前に藤江氏に説明されたのが、「RIVA(リバ)のステージ3プラスくらいのチューンだと思ってください」である。
リバとは、アメリカのアフターパーツメーカー。マシンカスタムの度合いに応じて、「ステージ」と呼ばれるパーツキットを販売している。数多くのパーツのなかから、確実に効果が上がる組み合わせを集めているので、そのキットを購入すれば、誰でも同じような効果が得られるというものだ。
ちなみに「ステージ3プラス」とは、「この機種で最高レベルの改造が施されている」という組み合わせ。そのキットを取り付けるだけで、最高速135km/hが手に入るという。
この「RXT-X 300」に乗って最も驚いたことは、「乗り味が純正ノーマルのまま」であること。最初にカスタム艇と聞かされていなければ、純正のRXT-X 300と信じていただろう。それほどマイルドな乗り味だった。聞けば、オーナーは一般のレジャーユーザーという。
基本的にレースでも使えるようなチューニングが施してあるマシンは乗りやすいが、それでも音や振動など、あらゆる面でノーマル艇とは異なる。
だがこのRXT-X 300は、ノーマル艇のスポーツモードと言われても信じるほど、乗り味が優しい。こんな経験は初めてだ。
普通、こういったカスタム艇に乗るときは、非常に気を使うものだ。お金もかかっているし、繊細な精密機械というイメージが強い。ところがこれは、ノーマル艇と乗り味が近いので、壊れる気が全くしない。
そうは言っても、メーターを見ればエンジン回転数は9,000回転を超えている。最高速も136kmオーバーと、普通のレース艇よりも速いくらいだが、それほど速さも感じない。
シードゥのランナバウトは、独自の冷却方式「クローズドループ・クーリングシステム(CLOSED-LOOP COOLING SYSTEM)」を採用している。これは、クーラント液を循環させてエンジンを冷却するシステムで、他メーカーのように水中から取り込んだ水でエンジンを冷やしていない。このシステムのおかげで、塩害を防止し、塩水やゴミ、異物などからエンジンを守っているのだ。
しかし、このRXT-X 300のようなチューニングマシンの場合、より高い冷却効果を求められるので、冷却方法を変える必要がある。
純正の冷却システムは、構造上ポンプを作動させるごとにエンジン馬力を10馬力ほど奪われている。純正ノーマルのエンジン回転数なら変更する必要はないが、改造すると、エンジンの最高回転数が跳ね上がる。そのため、冷却システムを従来の循環システムから、「外部から水を取入れて、外部に排出する」システムに変更する必要がある。
外部から水を取り入れる方式では、エンジン馬力をロスしない。レース艇やチューニングマシンには、こちらの方法が適している。このRXT-X 300も、リバから約5万円で発売されている、外部から水を取り入れるシステムに変更する予定だそうだ。
今回、試乗したRXT-X 300は、ガソリンが満タンでも最高速は136km/h出ていた。
ガソリンの量がもっと少なく、水温が低ければ、140km/h近くまでは速度が上がるだろう。すごく速いのに、壊れる感じが全くしない。安心して楽しめる「市販最速艇」であった。
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