カテゴリ
タグ
  1. TOP
  2. MACHINE
  3. 史上最強のジェットスキー SX-Rとは(水上バイク)

史上最強のジェットスキー SX-Rとは(水上バイク)

  • LINEで送る
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

史上最強のジェットスキー、カワサキ「SX-R」とは

「SX-R」強さの理由
スタンドアップ史上最強のエンジン出力

今から3年前の2017年3月16日、カワサキから新しい4ストロークスタンドアップ「SX-R」のデリバリーが開始されました。SX-Rには、ランナバウトのSXT-15Fと同じエンジンを搭載していることもあり、発売当初から、レース関係者から注目されていました。

この記事は、元プロライダーで、現在、世界で戦うマシンを製作するコンストラクターとして活動する藤江功一氏(K1 Racing Service)に、「SX-R」に関する考え方を聞いたものです。

「レース艇の戦闘力」についての藤江氏の持論

藤江氏曰く『ジェットスキーの推進力に関する戦闘能力とは、「エンジンパワーに対してのポンプサイズ」で決まる』と言います。
例えば、2ストロークの800SX-Rは、ノーマル艇のポンプの直径140mmですが、レース艇にした場合、直径142mmのポンプが、3気筒エンジン搭載の800SX-Rには144mmのポンプがベストとされています。

SX-Rのポンプは、最初からランナバウトのSTX-15Fと同じ直径148mmが装着されています。「2気筒や3気筒よりも大きな、4サイクル1,500ccエンジンを搭載し、最大のポンプ直径を持つSX-Rが最強である」と藤江氏は言います。

カワサキ製歴代スタンドアップのポンプの直径の比較

機種名 ポンプ径
440/550 120mm
750シリーズ 140mm
800SX-R 140mm
SX-R 148mm

ヤマハ製スタンドアップのポンプの直径

機種名 ポンプ径
700 FX
(1998年に販売終了)
122mm
Super Jet 144mm

2017年当時から、藤江氏は「SX-Rでないと勝てない時代が来る」と話していた。それはすぐに現実のものとなった。

カワサキ4ストローク 1500ccエンジンを全てバラバラに分解したところ。

ロングインタビュー・藤江氏が語る「SX-R」

「SX-R」の走行性能について

藤江 SX-Rの船体はVハル形状なので、誰でも理想的な直線姿勢で走れます。ジェットスキーの最高速時の理想的な走行姿勢は、フロント部分が浮いてリアだけで接水している形です。コーナリング時は、フロント部分が旋回のきっかけになります。アクセルを緩めて減速すれば、フロント部分が下がり、ハンドルを切れば前を噛ませて曲がれるようになっています。

SX-Rは、自分が思っていたよりもブイの内側をまわってしまう。「曲がりすぎ」てしまう人も多い。これは、ライドプレートが下向きに角度が付いているから。大柄なアメリカ人など、体重が重い人でも乗りやすくしているのです。このライドプレートのお陰で、コーナリング時にも、自動的にフロントを抑えてくれます。逆に、体重の軽い人はわざとフロントを噛ませて曲がる必要があります。いずれにせよ、何も考えなくても、直感的な操作で乗れるのが「SX-R」だと思います。

10年以上前から、SX-Rと同じエンジンが搭載されたSTX-15Fのレース艇を開発し、参戦してきた藤江氏。「その分のデータの蓄積があるので、このエンジンの開発に関しては、世界中の誰にも負けないという自負があります」と言う。

「SX-R」のスポンソンの役割とは

WJS 以前、スポンソンを外してSX-Rに乗ったことがあります。そのとき、スポンソンがなくても曲がったので驚きました。
藤江 ノーマルのSX-Rの場合、スポンソンは曲がるためというよりは、「直進安定性」のためにあります。バンパー(ボンドフランジ)が接水して、スポンソンと同じ役割をしています。スタンドアップは、みんなそうですよ。だからスポンソンがなくても曲がれるのです。

WJS 初歩的な質問で申し訳ないのですが、そもそもスポンソンって何のためにあるのですか?
藤江 SX-Rの場合、曲がるためではなく、すぐに滑走状態に入れたり、直進安定性を増すために付いています。

WJS スポンソンがあったほうが、直進安定性もコーナリングも良くなるのですか?
藤江 直進安定性はそうだけど、コーナリングは違います。あれだけの重さとパワーがあるから、推進力でライダーが軌道を変えることができます。

WJS パワーで曲がるのですか?
藤江 ハンドルを切って、アクセル開けたら曲がります。ハンドルを切ると、ポンプに角度が付く。そこでジェット噴流が出たら曲がるでしょ。だからスポンソンに関してだけいえば、コーナリングより、直進安定性が上がります。

「SX-R」の最高速は?

WJS SX-Rの最高速度はどのくらい出るのですか?
藤江 昔、STX-15Fのレース艇を造っていたときは、最高速が110〜115km/hの間だったから、そのくらいにはなると思いますよ。最高速は気温で変わるけれど、STX-15Fが95km/hで、SX-Rは96km/hでした。電気のマッピングとインジェクターの回転率が違うんで、わざとスピードを落としているのかもしれません。もし落としているのなら、SX-Rはそれを戻すだけで105km/hくらいは出るんじゃないかと思っています。

WJS 重くて大きなSTX-15Fの整備質量は383kg、スタンドアップのSX-Rは250kg。STX-15Fのほうが133kgも重いのに、最高速が1km/hしか変わらないのは変ですよね?
藤江 ピストンの、どの位置で火花を飛ばして爆発させるかによって、パワーが上がったりマイルドな乗り味になったりします。SX-Rはレギュラーガソリンだから、恐らくマイルドなセッティングにしているんじゃないかと思っています。
皆、分かってないのは、最高速が10km/h上がるって、どエラいことなんですよ。1km/h上げるのに約15馬力必要だから、10km/h上げるにはプラス150馬力。ノーマルのSX-Rはもともと150馬力だから、エンジンをバラして精度を上げてさらに組み直すことをします。さすがに150馬力も上げませんが、そこに電気的なチューンを施すとトップスピードは10km/h以上アップします。

WJS レースで使うには、最高速はどれくらい必要なのですか?
藤江 110〜115km/hくらい出れば世界で戦えます。世界のトップレベルのマシンにはもっと速いのもあるけど、SX-Rはベースエンジンのパワーがあって、船体も大きいから安定性が上げられるし、ポンプサイズも大きい。これからは、「SX-Rで勝てないほうがおかしい」ってなってくると思います。

ライダーがいくらでも練習できる。壊れる心配がなくなったら、レースのレベルが上がると思うという。

「SX-R」レース艇へ改良する方法

WJS SX-Rをレース艇としてカスタムする場合、最初に何をするのですか?
藤江 エンジン回転数と点火時期を見ます。インジェクターの数値とインペラーの角度がSTX-15Fと同じだったから、トップスピードを測って操縦安定性を確認します。次に、プラグの点火時期を進めて、スピードの変化を計測して、そのときの操縦安定性を比べる。速くなる前と、あとの船体の挙動を比べることで、その先の動きを予想します。

WJS 藤江さんは、いつごろからSTX-15Fのレース艇を手掛けているのですか?
藤江 10年以上前から、スーパーチャージャーを装着したSTX-15Fを造っています。国内だけではなく、海外のレースチームからレース艇の製作を依頼されたり、耐久レースで負けなしのSTX-15Fを作ってきました。STX-15Fに関しては、10年分以上のデータを持っているから、エンジンが同じSX-Rでも、その分、先に行っていると思っています。

WJS データを持っているというのは、そんなに差が出るのですか?
藤江 ターボだと、過給圧を上げれば速く走らせられる。でも、NAエンジンは「細かいことの積み重ね」なんです。こうしたら速くなるけど壊れるとか、手探り状態で始めなければならないところでも、データがあれば一気に完成品まで持っていける。あとはそのパワーで走るための操縦安定性をどれだけ高められるかという部分が課題です。

10年以上前から、SX-Rと同じエンジンが搭載されたSTX-15Fのレース艇を開発し、参戦してきた藤江氏。「その分のデータの蓄積があるので、このエンジンの開発に関しては、世界中の誰にも負けないという自負があります」と言う。

マシンを造るうえで、必要不可欠な「データ」

WJS データを持っているということは、それだけアドバンテージになるのですね?
藤江 最大限壊れなくて、パワーのあるエンジンを作る。ポンプも「このパワーならコレ」っていうのが頭にあるので、そのポンプとインペラーを付けて、とりあえず走らせる。操縦安定性で悩むのは、そこからですね。

WJS レースにSX-Rを使うメリットはなんですか?
藤江 SX-Rの1番のメリットは、「エンジンが壊れない」。これは非常に重要な要素です。誰にも分る話ですが、純正ノーマルがが150馬力です。どこまで出力を上げても壊れないの?と聞かれたら、こう言います。「2倍以上」ですと。その根拠は、ウルトラ310のベースにもなっているエンジンだから、310馬力に上げても壊れない。しかもSX-RはNAなので、絶対に壊れないはずなんです。

WJS レース中に壊れないというのは素晴らしいですね。
藤江 それに、ライダーがいくらでも練習できる。コレは画期的な出来事で、今まではパワーアップしたマシンっていうのは、壊れても仕方がないと思われていた。でも壊れたら修理でお金がかかるでしょ。その心配がなくなったら、世界中のレースシーンのレベルが確実に上がると思います。初めてですよね、パワーを上げたエンジンが壊れないなんて……。SX-Rの登場で、立ち乗りの、いや、ジェットの未来が変わると思います。

関連記事
2020 カワサキ ニユーモデル STX160とは
カワサキ ニユーモデル STX160に乗ってみた
世界的メジャー レースマシンブランド「ブレットレーシング」とは
冬こそ要注意、現代ジェットの弱点 バッテリー
冬の必需品 、ドライスーツは世界を変える
ジェットスキーの免許の取り方
どのメーカーの水上バイクが壊れないの?
今、「初心者」が、買うべき水上バイクは?(ジェットスキー)
しないと壊れる、ジェットスキー(水上バイク)の慣らし運転

ジェットスキー中古艇情報

月間アクセスランキング