「ランナバウトの乗り方」には、明確な「理論」があります。それには「知識」が必要です。まずは、基本を知ることから始めましょう。今回使用するモデルは、市販ノーマル艇のシードゥ「RXT-X 300」。市場に流通している台数も多い機種なので、これに格好良く乗れたらゲレンデで一目置かれる存在になりますよ。
RXT-X 300の場合、下の3枚の写真の赤丸で囲った部分が、他のどのジェットとも形状が違う。「ST3」ハルという形状だ。両サイドの平らに抉れている部分をよく見てほしい。これが「世界最高峰の直進安定性」を生み出す秘密なのだ。
「ST3」ハルは「最高の安定性」を持つとメーカーがいう。ボンドフランジ(上部)部分はワイドになった。船底は深いV型のデザインで、下部はRXP-Xのようである。ワイド化された上部と、シェイプされた下部の合わさるところが平らになっている(下写真、赤の丸印)。ここが、停止時や低速走行時など、喫水が下がって水に接する部分だ。これが、世界最高峰の安定性の向上に貢献している。
真っ直ぐ走っていて、変な波に引っかかって飛び、斜めに着水することがあるだろう。普通のジェットスキーなら、自分で垂直に立て直して走れる。ところが、RXT-X 300で使われている「ST3ハル」の場合、段差(写真の赤丸部分)のお陰で自動的に水平に戻ってくれる。
例えば、水面に対して斜めに着水すると、最初に下側の赤丸部分が水面に接する。その反動で船体の反対側の赤丸部分も接水し、船体が水平に戻るのだ。これが、他のジェットに比べて、圧倒的な直進安定性を誇る理由である。一般のレジャーユーザーでも、アクセル全開で波間を走りきることができる、唯一無二のジェットがRXT-X 300である。
前項で「世界最高峰の直進安定性の理由は船体形状(上写真の赤丸部分)のおかげ」と説明した。この形状はコーナリングにも影響している。
例えば、右に曲がる場合、船体を右に傾けたほうが、Gもかからず楽に曲がれる。しかし、RXT-X 300の場合、極端に船体を傾けると赤丸部分が接水し、水平に戻ろうとする。船体は起き上がろうとするから、その勢いでバンクさせているのと反対側(アウト側)に力がかかり、かなりの確率でライダーは吹っ飛ぶ(「ハイサイドを食らう」と良く言う)。重力と遠心力による、当然の結果だ。ちなみに、下の写真のように私も派手にブッ飛んだことがある。
「RXT-X 300は、傾けて曲がると良くない」。ここまで読んでくださった方は、理解したはずだ。これは、「他のジェットでも同じだ」と砂盃プロは言う。その理由は、ジェットが走る仕組みによる。
黄色で囲んだ部分(上写真)のように、ジェットはインテークゲートから吸い込んだ水を、ポンプから吐き出す勢いで走る。だから、常にここから水を取り込まなければ前には進まない。そのため、旋回する際、あまりに船体を傾けるとインテークゲートが水面に出てしまい水を吸い込まなくなってしまう。失速するのだ。
「ジェットは傾けて曲がると良くない」というのは、あくまで砂盃プロの考え方であり、人それぞれの意見がある。バンクさせたほうがGに耐えられるから、早く走れるという人もいる。
いずれにせよ、「RXT-X 300」はバンクさせるとハイサイドをくらって吹っ飛ぶことがあるのは事実だ。曲がるときは、ちょっとだけそれを思い出して、船体を水平にしてコーナリングするように心がけよう。
RXT-X 300の、直線性能は世界一。コーナーは人間が頑張る。それが嫌なら、現在、最高のコーナリング性能を持つ、2人乗りの「RXP-X 300」に乗れば良い。何も考えず、ハンドルを切れば、トップライダーと同じように曲がれるはずだ。その代わり、直線は人間が頑張ることになる……。いずれにせよ、全てが優しいハイパワーマシンはない。
写真から分かるように、砂盃プロは、基本的にジェットは倒さない。できる限り、水平に曲がるようにしている。スタンドアップ(SX-R)も同じようにしているのが分かるだろう。
今回、友情出演してくれたのは、全日本の「ミスター・スタンドアッパー」桜井直樹プロだ。彼の考え方は、砂盃プロとは真逆で、「ジェットを倒さないと、Gには耐えられない」という。考え方は違うが、写真で見比べると2人のライディングフォームは、良く似ているように思う。
砂盃プロは、「桜井プロは、立ち乗りの師匠」と言うが、コーナリングに対する考え方は絶対に譲らない。「できるだけ船体を倒さずに乗る」だ。お互い、信念を持って乗っていることは伝わる。
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