
ジェット業界のカスタムペイントの第一人者、ヒロキックスデザインの佐々木宏樹氏に、ヤマハ MJ-TZ700のオーナー氏からオールカスタム艇製作の依頼があった。オーナー氏の要望は「1993年製ヤマハTZ700を、今、見ても乗っても、最高に満足できるように改良してほしい。そして壊れない」ことだった。これはまさに、車で言うところのビンテージカーの世界観である。
試行錯誤の末に仕上がったのが、この「TZ1100」である。
仕上がった「TZ1100」と、製作者のヒロキックスデザイン代表・佐々木宏樹氏。オーナー氏の「絶対に壊れない」という要望に対して、佐々木氏はエンジンは全て、全日本チャンピオンホルダーの山本陽平プロのショップ「クレイジーハウス」に依頼をした。あえてエンジンチューニングという方法を取らず、3気筒エンジンに積み替えてもらう。
エンジンと電気系は、以前、山本プロがレースで使用していたクレイジーハウス製のものをデチューン。本来なら、ゆうに最高速100km超えるエンジンだが、あえて90km/hに抑えてある。
2サイクル700ccエンジンを、3気筒1,100ccエンジンに積み替えた。
本来のポテンシャルを発揮したら、最高速100km超というモンスターエンジン。
文字も全てがペイントで仕上げられている。ヒロキックスデザインの美しい仕事。
メインスイッチ。社外品のECUを使っているためスイッチで電源を落とす。
ワンオフのウォーターボックス。
全長の長いフロントスポンソンを装着。
フロントスポンソンは大きく張り出している。
下から見たフロントスポンソン。ガンネルと比べるとどれだけ張り出しているか分かる。今回、オーナー氏のご厚意で、素敵なカラーリングのレーシングTZ1100に乗れることになった。乗ろうとして驚いた。乗り込みが超簡単なのだ。普通、TZというモデルは船体形状的に非常に不安定だ。乗るときは左右にフラつき、バランスを取るのに神経を使う。波が出ていたら最悪だ。でもこのTZは、大きく張り出したフロントスポンソンのおかげで、今ドキのランナバウトのように安定している。
エンジンを始動して感じるのは、「これは壊れない!」だった。さすが、プロのレーシングマシンビルダーが、ハイパワーエンジンをデチューンして作っただけのことはある。
アイドリング時から、音も静かでおとなしくてスムーズ。この船体サイズで最高速90km/hなら、体感的にも全然速い。メーカーが作った最新モデルという感じだ。
コンパクトサイズで、乗っていて楽しい。船体を倒して強烈にアグレッシブにも攻められるし、シートに座ってバイクのようにも乗れる。非常に楽しいジェットだった。1度、沖で転んだとき、簡単に乗り込めることに笑ってしまった。体力がなくなってから、乗り込みがキツいのがTZなのに……。今の時代、こんな新艇が発売されたら楽しいと心から思った。
仕上がったTZ1100のテストライディング。乗っているのは、プロライダーでもある佐々木宏樹氏。
水深の深い場所で乗り込む。
リアデッキで、簡単に膝立ちになれる安定感。
デッキから両手を離してハンドルを掴むが余裕だ。
ハンドルを握る。かなりテンションが上がる。
「もしかして立てる?」と思ったら簡単に立てた。
速くて楽しい!
このフロントスポンソンが安定の秘密。
キレイに収まっているエンジンルームに感動。TZ700の販売が終了したのは1996年(翌年からは700TZTとなった)。現在、中古艇の市場流通価格は15万~25万円だ。今回のカスタム艇で使われているアッパーハルは、アフターパーツメーカーのワミルトンが製作したシート一体型を使用。FRP製で、純正よりもかなり軽量化されている。直接、エンジンルームにアクセスできるので、メンテナンス性も高いのが特徴だ。
このアッパーハルの価格が約20万円。オールペイント代が約30万円。マグナムポンプが装着され、エンジン関係はクレイジーハウスの特別仕様。かかった総額130万円は下らない。
ここで質問です。「ジェット本体は20万円。改造費に130万円かかるTZはアリですか?」。
世界で自分だけのオリジナルな1台。しかも、日本を代表する匠たちにリクエスト通りに作ってもらえるとしたら、かなり割安かもしれない。フラッグシップのランナバウトは、当たり前のようにゲレンデで見られるが、こんなジェットは他にない!

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