「YAMAHA GP1800」は、速くて楽しいマシンである。しかしそれは、完璧に乗りこなせてこそ言える感想だ。
1.8リットルSVHOのハイパワーエンジンにミドルサイズの船体。船体は常にスクエア(傾けずに平ら)に保つのが望ましい。そのため、ライダー自らがマシンの挙動を整え、コントロールする必要がある。特に難しいのが、ラフ水面での水の捉え方だ。
荒れた水面を、同じヤマハFXと走れば一目瞭然だ。FXは何もしなくてもマシンが水をしっかりと捉えて前に進んでくれる。逆にGP1800は、ライダーのスキルでマシンの走行姿勢を整え、インテークゲートが常に水を噛むようにしなければならない。高速走行時のタイトコーナーもそうだ。FXはハンドルを切れば船体がバンクし、強力な遠心力(G)にも耐えて曲がってくれる。決められたポジションに座り、両ヒザでシートをホールドするだけで「プロのコーナリング」が手に入るのだ。それに引きかえGP1800は、旋回時、できるだけ船体をバンクさせないことが基本となる。下半身や体幹を使ってGに耐えなければならない。ただでさえFXよりも船体が小さいのに、スピードやGをコントロールしながら、さらに船体を傾けないテクニックが必要となる。
極端に言えば、FXがフルオートタイプのカメラだとしたら、GP1800は一眼レフカメラ。一眼レフのほうがディープな楽しさが多いのは理解できるが、実際に使うなら優しいカメラのほうが有利な気がする。
それなら、なぜGP1800が「最強のリアルレーサー」といわれるのか?
今回、ランナバウトクラスの元プロライダーで、現在はコンストラクターとして活躍する藤江功一氏(K1 Racing Service)の協力で、「GP1800」の実力を検証することにした。
100mほど離して2個のブイを設置する。そこを「8の字」を描くように走る。最初はゆっくり走り、だんだんスピードを上げ、かつ、タイトに曲がるようにチャレンジする。何十周もチャレンジしていくうちに、「これ以上のスピードで突っ込んだらスピンする」とか、「これ以上、マシンを傾けたりフロント寄りに加重すると、キャビテーションが起きる」といった情報が体に伝わってくる。
こうやって、じっくりとジェットスキーと対話をしながら走ってみるといろいろ感じるものがある。
次に藤江氏の後ろに乗って、走行ラインとアクセルワークの説明を聞いた。プロの走り方は、私とは全く違う。
1 コーナリングに入る最初の部分で、アクセルを瞬間的に戻す。これでハルのフロント部分が水に接する。フロント部分が水に接した状態でアクセルを開ける。フロント部分に過重する。
2 そのままアクセル全開で、ブイをまわったら、あとは思いっきり後方に荷重してGに耐える。コーナリング中はマシンを内側に傾けないで、外側の足で踏ん張り、マシンを水平に保ってGに耐える。ものスゴイ超高速ターンができる。
適切なアクセルワークと体重移動ができれば、かなりスピードを出しても思い通りのコーナリングができるのが「GP1800」であるということだった。
藤江氏から、「僕と同じように走って」と言われて私もチャレンジしてみた。結果は、スピードを出すとブイに対して大きく膨らんでまわってしまったり、キャビテーションを起こして船体が滑ってしまった。その理由と対策を、藤江氏が説明してくれた。
1 コーナリングのきっかけを作る際、マシンを傾けすぎているのでフロント部分が水に噛みにくい。外側の足でしっかりと踏ん張り、ハンドルを切って思いっきりアクセルを開けていくだけで超高速ターンができるという。
2 ブイに対して大きく膨らんだ原因は、コーナリングの最初でマシンを傾けてしまったため。フロント部分が水に噛んでいない状況で加速すれば、当然、スッポ抜けたり膨らんだりする。
3 コーナーの途中でキャビテーションを起こすのは「傾いて滑っている」ことと、「体重が前にかかりすぎて、一番、荷重がかかる後部が滑るからだ」ということであった。
「ジェットの特性を知るにはスポンソンを外して乗るといい」と、藤江氏に教えてもらった。
スポンソンはその形状から、「水を引っ掛けて曲がるためのモノ」と解釈している人が多いだろう。でも、それは間違い。
スポンソンは、ジェットの後方に装着されている。左に曲がるときは右後ろのスポンソンが抵抗となって、対角線上の左側のフロントを抑える仕組みだ。フロント部分が水を噛み、後方からの推進力が加わることでジェットは曲がる。もしスポンソンがなかったら、その役割をライダーが担うことになる。
スポンソンを外して乗る前に言われたのが、「いきなり加速すると、強烈にスピンか横滑りする。自分でスピードを加減しながら、アクセルワークと体重移動でブイをまわれるように挑戦してください」だった。
藤江氏の言うとおり、最初はテールが滑ったりスピンしたりと、まともに走れなかった。「こんなに!」と思うほど遅いスピードから、少しずつスピードを上げていくといろいろなことが分かってきた。かなり速いスピードで突っ込んでも、コーナーに入る前にアクセルを緩めると、フロントがしっかり水を噛んでハンドルが効いて曲がれる。そのとき、外側の足に体重をかけ、なおかつ体が前のめりにならなければ、スポンソンがなくても滑らずに曲がってくれる。
フロントを無理に噛ませようと前を抑えようとすると、必ずスピンする。何度も失敗しているうちに、「私の限界スピード」や、「減速ポイント」「体勢」、「踏ん張る場所」など、徐々にGP1800の最適なライディングが分かるようになってきた。おかげで、スポンソンのない状態で30分ほど練習を続けたところ、かなりのスピードでターンできるようになったのだ。
この「スポンソンを外して乗る」という方法は、プロライダーを育成する際に藤江氏が使っている。マシンの走行特性を覚えるのに、最も効果的だという。スポンソンがなくても曲がれるようになれば、スポンソンがあればもっと曲がれる。ジェットの特性に合わせたアクセルワークと体重移動ができるからだ。
今回、GP1800を検証して感じたことは、他に類をみないパワーがライディングの難しさの要因になっているということだ。どの現行モデルのフラッグシップよりも軽いのに、業界最大の排気量1,800ccを誇るエンジンが搭載されているので、「スペックに対して、適切なライディングテクニック」が要求される。エンジンが同じパワーなら、より軽いほうが速い。
普通で考えれば、小さい船体のほうが操縦安定性は悪いはずなのに、軽くて小さいGP1800の操縦安定性は素晴らしい。ライダー自身がキチンと扱うことができれば、とことん応えてくれる。まさにスポーツランナバウトそのものである。
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