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現代のランナバウトにとって、2海里は遠いのか!?

ここ数年、ランナバウトの性能が飛躍的に上がった。燃料タンク容量も大きくなり、さらに、ガソリン缶をリアデッキに積めるシステムができたりと、長距離を走ることへの不安もなくなってきた。我々も、「大航海時代」と称して、ジェットスキー(以下、ジェット)の超ロングツーリングを敢行してきたので、長距離走行にも慣れてきている。

ジェットの航行区域は、「海岸から2海里まで」の距離で、「安全に発着できる任意の地点から最大15海里」と定められている(1海里は1,852m)。陸から2海里以上離れてはいけないし、15海里ごとに安全に発着できる場所で上陸しなければならない。だから長距離を走る場合、常に海岸線を意識しながら等距離を保ち、その地形をなぞるように走ることになる。

何度もツーリングをしていると、この「2海里」「15海里」が、体に染み付いてくる。距離感もかなりの精度で掴んでいるつもりだ。
陸から「2海里」以上離れない、「15海里」に1度は上陸しなければならない。常に数字に対して緊張感を保っていないと、知らず知らずのうちに航行違反を犯してしまうこともあるからだ。現代のジェットの性能なら「2海里」なんて、あっという間に到達してしまう。
蛇足だが、海で海上保安庁の巡視船に停止を命じられたとき、真っ先に確認されるのが船舶免許証の有無と現在の走行位置である。

進化した現代のランナバウトなら、日本一周も夢ではない。乗る楽しみと冒険心の両方を満たすことができるから、つい、遠くへ、もっと遠くへ、という心理になるのも仕方ない。だから、面倒でもこういった法律を覚えておかなければいけなくなるのだ。



遥かなる2海里

高性能ランナバウトに乗り、「ロングツーリングでは、『2海里』や『15海里』の法律がネックだよね……」という私を見て、44/55(スタンドアップのJS 440とJS 550を合わせてヨンヨン・ゴーゴーと呼ぶ)信奉者の先輩ジェット乗りが言った。
「そんな法律、あっても別に問題ないでしょ。ツーリングなんて片道30分以上、行っちゃダメなんだから」。
「は?」一瞬、その先輩が何を言っているのか分からなかった。こっちは、日の出とともに出発し、夕暮れまでギリギリまで走り続けることもあるのだから。

彼らが愛して止まない「44/55」は、約30年前に発表されたモデルだ。最高速は約60km/hで、ツーリング時の平均速度は40~50km/hがいいところ。
「このジェットは、約1時間でガソリンがなくなる。つまり、30分以上走り続けると帰って来れなくなる」「2海里も岸から離れるなんて自殺行為だ」と言う。今のランナバウトと比べると、距離感もスピード感も全く違うのだ。

44/55は船体が小さく不安定で、目線も水面に近い。だから実際にはそれほどスピードが出ていなくても、体感速度は現代のジェットよりも速いし、疲れ方は5倍増しくらいなのかもしれない。



走るときは上流を目指せ! 浮いていれば帰って来られる

さらに、「川を走るなら上流を目指せ」とその先輩は言う。マシントラブルでエンジンが止まっても、そのまま流れに身を任せていれば、下流のスタート地点に戻って来られるからだという。逆に下流に向かって走ったら、そのまま流され続けてスタート地点からどんどん遠ざかってしまうというわけだ。
面白いのは、先輩の話は「常に、ジェットが壊れる」ことが前提なのだ。実際、44/55は壊れやすかった。

もし私が、「自分のジェットは壊れる」という意識を持ちながら遊んでいたら、もちろんロングツーリングに出かけようとは思いもしないだろう。
44/55ユーザーにしてみたら、「海岸から2海里」というプレイフィールドは持て余すほどの広さであり、片道30分で、十分、アドベンチャーツーリングが成立するのだ。しかも、マシントラブルが起きることが前提の彼らは、私よりもよっぽど危機管理能力が高い。

44/55の時代も、現代の高性能ランナバウトも、海のルールは変わっていない。2海里を超えるか超えないかで神経質になっている私など、先輩からすれば「贅沢なオモチャで、贅沢なこと言ってるなあ。海が狭くなったわけじゃないんだよ」と言うところだろう。

同じ海でも、乗るマシンによって見え方も遊び方もマインドも違う。忘れていた文化を垣間見たような、考えさせられるひとときであった。
たかが2海里、されど2海里。最近は、なまじマシンが高性能になったおかげで、うっかりすると、すぐに2海里を超えてしまう。進化と反比例して、ジェットの遊ぶフィールドは狭くなってしまった、とも言えるだろう。
ジェットスポーツを支えた文化遺産ともいえる44/55で走る2海里は、今よりも、十分に広かったのだ。



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