これは、私の経験に基づいた「絶対的な真実」である。手が冷たくなると、せっかくジェットスキーに乗ってもつまらない……。というよりも、手が冷たいと乗りたくない。単なる罰ゲームだ。どれくらい手が冷たいのが嫌かといえば、以前から、ヤマハ、BRP、カワサキの各メーカーの技術者の方に会うたびに「グリップヒーターが付いたモデルを販売してほしい」とお願いしていたほどだ。
しかし、少しでも危険だと思われる要素があれば、メーカーは発売しない。ということは、ジェットスキーにグリップヒーターを付けるのは、何らかの支障が出るのだろう……と、思っていた。それでも、グリップヒーターに未練タラタラであった。
この冬、私がよく行くバイク用品店のオススメ品が「グリップヒーター」だった。しかもご丁寧に、「お試しください」とハンドルバー付きのサンプル品と一緒にディスプレイされている。前から気になっていたので、この店に来るたびにグリップを握って温かさを確認していた。5段階に温度調節ができるらしいが、最強の「5」にしても体温ぐらいにしかならない。「こんなんで大丈夫か?」と思っていたが、ずっと気にになる存在だった。それが年末にセール品となっているのを見つけた。税抜き9,000円のところを、セール価格・税込み8,748円だ。思わず衝動買いしていた。
ジェットスキー仲間に「グリップヒーターを買ったから付けようと思う」というと、皆、口を揃えて「多分、バイク用をジェットスキーに使うのは無理。リークして感電する」と言う。だが私は、どうしてもグリップヒーターを付けたかった。誰もやったことがないなら、実践してみないと気がすまない性分なのだ。
グリップヒーターを装着するにあたって、私には「3つの疑問点」があった。
1 バイク用のグリップヒーターが、ジェットスキー(ランナバウト)に装着できるのか?
2 ランナバウトで使っても、本当に温かいのか?
3 水の上で使っても壊れないのか?
念のため、バイクショップのショップ店員に「このグリップヒーターは、ジェットスキーに使えますか?」と聞いてみた。帰って来た答えは、「ハンドルバーの口径が同じなら付きます」だった。水の上で使っても大丈夫か聞くと、「土砂降りの雨の中、バイクで走っても何の問題もないから大丈夫だと思いますよ」と言われた。極めて大雑把な回答だが、どうやらジェットスキーに付けても大丈夫そうだ。
グリップヒーターを買ったはいいが、当然、自分で付けられない。頼りになるのはプロのジェットショップだ。ビーチマリン(埼玉県久喜市)の小森谷明子チーフにお願いをすることにした。購入したバイク用グリップヒーターをビーチマリンに送り、「見栄えがどんなに悪くても、簡易的でもいいですから付けてみてください」とお願いした。仕上がりは、「さすがプロ」である。まるで最初から付いていたかのような出来栄えだった。
実際に水の上に出て、アクセル全開で走り回った。結構な勢いでハンドルやグリップに水がかかったが、全く問題がなかった。グリップヒーターを試す前、「手の甲が冷えるから意味がない」、「すぐに感電する」、「漏電する」と言われていたが、全部、嘘だった。
極寒の水の上、ハンドルグリップが温かいだけで、これほど快適なのかと驚かされた。手のひらが温かいだけで、幸せになった。何ごとも、やってみなければ分からない。冬場にこの温かさを知ってしまったら、もうグリップヒーターがなかったころには戻れない。