
担いでいる箱の中に、フルグラフィックデカールキット一式が入っている。意外と重いが、その重さが、「良い物が詰まっていそう」で、なぜか嬉しい。重さをキチンと聞いてみたら、ステッカー自体は数百グラムの軽さであった。重さの理由は、台紙が厚いのと、シールを保護するため余白部分を多く取っているからだそうだ。それを聞いて、少し嬉しく、少し悲しかった。
デカールキットは、このようにロール状になっている。作業をしてくれたのは、佐瀬 崇氏(Success Speed & Graphics代表)。
AM 10:00。これがノーマル艇のカラーリング。今から全てのデカールをキレイに剥がしていく。最初は、「自分にデカールを剥がせるのか?」と心配していたが、佐瀬氏の指導のもと、ヒートガンで温めれば簡単に剥がれることが分かった。ただ、ハンドルポールとフードのデカールは強烈に貼りついていて、剥がすのに少し苦労した。
 デカールを剥がすと、船体にボンドが残る。このボンドを、パーツクリーナーとガソリンを使ってとにかくキレイに拭き取る。少しでもカスが残っていると、上からデカールシートを貼ったとき、見苦しい突起物になってしまう。ノーマルのデカールとボンドを、徹底的にキレイに剥ぎ取るのだ。
 「ここだけは手を抜かずに、完璧に取り除かなければならない」と教えてもらった。
 今回のポイントが、「純正フードと純正ハンドルポールをそのまま使う」こと。純正のハンドルポールは性能が良い。それに、面積が大きいのでデザインの素敵なアクセントになる。ハンドルポールを社外品に交換するお金があれば、フルグラフィックデカールで船体全部をお色直ししてもお釣りがくる。
ドライヤーで温めると剥がれやすくなる。小さく千切りながらではなく、「大きな面で剥がす」のがコツだ。
細かく残ったデカールを、ウエスでキレイに拭き取る。
剥がれ残しがないように、細心の注意を払う。
大きく広く残ったノリ部分には、パーツクリーナーを染み込ませたウエスを置いて、しばらく放置する。
場所によっては、佐瀬氏でも剥がしにくいという。ドライヤーで温めながら、丁寧に根気よく剥がしていく。
あらゆる場所で、パーツクリーナーが大活躍。
 AM 11:30。2人で1時間半かけて、すべての純正デカールを剥がした。デカールを剥がしたら、パトカーみたいになった。
佐瀬氏が作ってくれたデザインのフルグラフィックデカール。実物を見せられても、貼った後のイメージが湧かない……。ボンドをキレイに剥がしたら、箱から、高性能フルグラフィックデカールシートを取り出す。想像以上に大きい。1枚のシートが、着物の反物のように丸められている。
 まず船体の片側から貼っていく。デカールを貼るには、少しの訓練とコツがいる。いきなり貼るのではなく、まず要らないシートの切れ端を適当な大きさに切って貼る練習をする。
気泡が入っても、シワが寄っても、全然、平気。何度でも剥がせるし、クシャクシャになっても大丈夫。シート自体に目に見えないスリットが入っているので、気泡はスキージー(貼り付け圧着用のヘラ)で押し出すようにして伸ばすと外に出てくれる。
 さらにシートの縁にヒダのようなシワができても慌てない。温めると縮む性質があるので、仕上げにヒートガンで温めれば大丈夫。とは言っても、細かい部分までキレイに貼るには、かなりの根気がいる。
何度でもやり直せるだけに、私のような不器用なヘタクソだと、さらに時間がかかる。
佐瀬氏が送ってくれたデザインのフルグラフィックデカールのイメージ図。最初に起点となる場所を決めて、それを中心に貼っていく。フルグラフィックデカールを貼る最大の難所は、起点を決めたり、位置を合わせたりすることだ。
 少々合わなくても大丈夫。それほど気にする必要はないのだが、実際にやってみると言うほど割り切れない……。
佐瀬氏曰く、ステッカー貼りは「完璧に貼らなければ気がすまないタイプ」と、「他人には分からないのだから、もういいよというタイプ」に分かれるらしい。
PM 2:00 佐瀬氏に渡されたシートの切れ端を使って、貼る練習をしている私。いかにも素人丸出しの手つきだ……。フロントサイドに起点となる1枚を貼っただけで、あまりの格好良さに「完璧に仕上げなければいけない」と思った。佐瀬氏が貼っているのを見ると、早くて仕上がりもキレイだ。非常に簡単そうだが、自分で貼るとなると勝手が違う。
かろうじて、半分ぐらいは自分で貼れた。何度も剥がして貼り直せるのは、本当にありがたい。
 街を走っているバスや電車で、全面をラッピングしている車体を見たことがあるだろう。あのラッピングシートは1枚もので作られているので、プロにしか貼れない。自動車のようにほとんどが平面であっても、卓越した技術を習得した者でないとキレイに貼れないという。
 まして、ジェットスキーのように曲面だらけのところに、1枚もののシートを貼るのは至難の業だ。そこで佐瀬氏が考え出したのが、「シートを分割して、パーツごとに貼る」方法。
 慣れていないと時間はかかるが、これなら特別な技術がなくても誰にでもできる。そのおかげで私にも貼れるが、位置がズレると悲しい気分になる……。
 全部貼った後で、最後に「位置がズレているから、全部貼り直し」なんて嫌だ。今回は、日本で1番、このフルグラフィックデカールを貼っている人と一緒に作業をしている。失敗はありえないから安心だ。もしこれを、自分1人でやるとしたら、ゆっくりと時間をかけて、丁寧にやりたいと思った。
我がWJS号のデザインは、「直線」が多い。「ラインが一番合わせにくい」と、佐瀬氏が言う。「一見しただけではズレているか分からない」と言われても、性格的にズレると気になってしまう……。
淡々と作業は進む。早々に貼り終わった佐瀬氏が、私のところに応援に来てくれた。
下ハルを貼り始めた。そろそろフィニッシュも近い。
ハンドルポールに貼っていく。「こんなにグチャグチャになっても大丈夫?」と思うのだが、全然、平気。仕上がりは、写真左のようにキレイに貼り付けられる。夕方、完成したSX-Rを見て、「これ、すごくカッコいい!!」としか言えなかった。目の前で、愛艇が変化していく様子を、まざまざと見せつけられた1日だった。デザインだけで、ジェットの見た目がこれほど変わるとは……。本当に驚いた。
私は、純正ノーマルのデザインが好きで何の不満もなかったが、このフルグラフィックデカールを貼った船体には、完璧に脱帽である。
 佐瀬氏が、このフルグラフィックデカールキットを作った理由のひとつは、「デザインに優れたオールペイントは、料金が高いからだ」という。ラッピングなら、安価でジェットの傷付き防止にもなる。新艇を買ったときにこのシートを貼れば、船体に傷を付けなくてすむ。自分で貼れば、愛情のわき方もハンパないのだ。
PM 7:00 これにて完成。「カワサキ純正ノーマルの、少しだけレーシーで豪華版」という見事な仕上がりとなった。
関連記事
 カラーリングでジェットは変わる!!
 ジェットスキーのカラーリング 今、流行りの「ラッピング」って何?
 簡単にジェットスキーのカラーリングを変えられる
 トレーラー運転マニュアル 誰でもトレーラーを牽いてバックができる
 ジェットスキー 「新艇」と「中古艇」ではどっちがお得?