秋、冬、春　大切なのは体感温度　寒いというだけで、全てが台無しになる!!　ジェットスキー（水上バイク）　コラム

体感温度・水の上では、「陸上の気温」なんてアテにならない

何年か前のことだ。12月初旬、スタンドアップで富津岬から金谷まで、ロングツーリングに出かけたことがある。前日の天気予報を見ても、雨は降りそうにないし、予想最高気温は18℃だった。

集合は朝7時。冬らしい寒さの朝だ。いくら気温が18℃まで上がるといっても、迷わずドライスーツをチョイスした。当たり前の話だが、『予想最高気温』とは、1日で一番、気温が上がったときのことだ。朝晩や、日が陰ると気温は下がる。

この日のツーリングには、スキークラスの全日本チャンピオン、“KING”竹野下正治プロと、私がいつもお世話になっているショップ店長でプロライダーの加藤豪選手も参加してくれた。竹野下プロは、私と全く同じブランドの同じドライスーツを着ていた。

冬の晴れた日は、朝晩が冷え込む。

12月の真冬の海。一人で大汗をかく私がいた

金谷までの走行時間はおよそ30分。ノンストップで走ることになった。
これが、それまでの私のジェットライフのなかで、最高といっていいほど暑かった。ライディングの最中、背中を汗が流れ落ちるのが分かる。スタートして10分くらいで、あまりの暑さに眩暈がしてきた。

ツーリングのリーダーに、「陸に上がって飲み物を買いたい」と直訴したが、「ここは断崖絶壁が続くから、陸上に上がれる場所はない。陸に上がっても、自販機すらない。金谷まで頑張れ」と叱られた。
猛烈な渇きの中、遥か昔、学生時代、部活での拷問のような夏合宿を思い出した。あのころも、水が飲めないで死にそうな思いをしたな……。

しかし、他の参加メンバーは、あきらかに私ほど汗だくではないし楽そうだ。見れば、私と竹野下プロ以外は、皆、ウェットスーツだった。

目的地の金谷に到着したとき、半ば脱水症状だった私。ジェットをほったらかして、「皆の分の飲み物を買ってきます」と、ダッシュでコンビニに向かった。お金を支払い、皆の分の飲み物を袋に入れてもらっている間に、レジカウンター前で2ℓのポカリスエットを一気飲みした。さらに、皆と同じサイズの500㎖のスポーツドリンクも追加で買って、急いで戻った。

私がこんなに喉が渇いているのだから、きっと皆も同じはずだ。きっと喜ぶはずだと思って、冷たいスポーツドリンクを手渡すが、誰ひとりとして、それほど喜ばなかった……。

体脂肪の少ない、アスリートほど寒がりだ。

海の上、暑いのは我慢できても、寒いのはどうしようもない

「暑くて、喉が渇いて死にそうだった」と訴える私に、竹野下プロがドライスーツの背中のファスナーを開けてくれた。ファスナーは、背中の肩甲骨あたりに左肩から右肩にかけて横一文字に開けるタイプなので、自分で開けることができないのだ。
ファスナーを開けてもらったときの気持ち良さといったら、たまらなかった。「開けていれば涼しいけー」と、竹野下プロは広島弁で笑った。

どうして、そんな簡単なことを思い付かなかったのか自分でも不思議だが、さすがにいろいろな環境で乗っているプロライダーは、ドライスーツの着方ひとつとっても技がある。
「あっ、気がつかなくてすみません」と、竹野下プロの背中のファスナーを開けようとしたとき、「俺は寒いけ、このままが良い」というのだ。

同じドライスーツを着て、同じ海面、同じ距離を走っていたのに、“寒い”と言う竹野下プロに驚いた。全日本チャンピオンは、体脂肪がヒトケタなので寒がりだ。しかも、彼にしてみたら、この距離をノーマル艇で走るなんて、汗もかかないハイキング程度なのだろう。

ランチを食べて再スタート。出発地点に戻るまでの間、背中のファスナーは全開のまま、その上からライフジャケットを着て、快適に走っている私がいた。一度、変な波を受けて転んだときは、背中から冷水が入り込んで大声を上げてしまったが、それでも、しばらくすればすぐに体が温まって快適だった。

「寒いのと暑いの、どちらかを選べ」と言われたら、私は、絶対に暑いほうを選ぶ。暑ければこうやってドライスーツのファスナーを開けたり、冷たい水を飲めば平気だ。体もよく動く。
しかし、極限まで体が冷えると、命の危険にさらされる。寒いと言うだけで、気持ちも沈むし、ジェットに乗っていても楽しくない……。

あれから、何年も経ったが、あの冬の日のツーリングの『暑さ』だけば覚えている。そして思い出すと苦笑い……。それも楽しい思い出だ。