そういえば以前、友人に誘われて、古～いクルマやカスタムカーばかりを集めた妙なイベントを見に行ったことがあった。カスタムカーの方はともかく（……「ともかく」というのは、個人的に馴染みが少ないという意味だが）、古～いクルマばかりを集めたコーナーに差しかかると、思わず目が輝いてしまったことをよく覚えている。
わが青春の日々が、そのまま蘇るようなクルマの数々……。トヨタ2000GT、ハコスカGT-R、セリカ、サバンナなどなど、その昔、一世を風靡した伝説のクルマが、どれもピカピカに磨き上げられて展示されている。そして、驚いたことに全てが「売りたし」のマーク付き。価格が明記されており、既に「売約済み」のカードが掛けられているものもある。
こんなクルマ、日ごろはどこに収納しあるんだろうか、などと、思わず余計な心配をしてしまう。毎日乗り続けているとしたら、あっという間に走行距離が百万キロは超えてしまうはずだし（だから、そんなはずはない）、屋根のない駐車場に置いていたら、あっという間に風化してしまうはずだ（だから、そんなはずはない）。きっと室内のガレージに、大切に大切に宝物のように保管されたまま、天気のいい日曜日にだけ、ときどきワックスをかけて、近くの自動販売機までタバコを買いに行くためにエンジンを掛けて、町内を一周だけ軽く流す。あとは、右から斜めから、さまざまな角度から、ため息をつきながら眺めて楽しむ。……きっと、そんな使い方に違いない、などと、いつしか勝手な想像が始まってしまう。もちろん、雨の日なんかは絶対に乗らない。
物言わぬ展示されたクルマを1台眺めただけで、その背景にあるさまざまな物語が次々に見えてくるというのは、よく考えたら、さすがにクルマの持つ歴史や文化の厚みを感じさせて、すごいことだと思った。
オートバイのコーナーもすごかった。新品と見間違えるほどピカピカのZ-Ⅰや、Z-Ⅱ。そして、美しい集合マフラーの曲線に絶大な人気のあったCB400FOUR。これは、中型免許で乗れるものと乗れないものの２種類の排気量があって……、などなど、若かりし日の記憶が次々に呼び覚まされていく。自分が乗っていたバイクもある。これが、何とも言えず嬉しい。結構、高い金額が付けられていたりすると、自分が褒められたような気がしてしまうのである。
こうなると、完全に、傍から見たら単なる馬鹿者である。しかし、この日の会場には、そういった「おバカ」のいかに多かったことか。すれ違うときの人々の目の異様な輝きが、まさにそれを物語っていた。
彼氏が必死でクルマの写真を撮っている傍らで、彼女がこう語りかけた。「ねぇ、そこに立って。そのクルマと一緒の写真、撮ってあげるから」
彼氏は間髪を入れずに答える。「人は一緒に写さない」
何ともクールな答えである。これが世に言う“思い入れ”や“こだわり”である。
一心に写真を撮っていた彼にとって、自分がそのクルマと一緒に写ることなど、微塵の価値もなかったのである。はたして、あの彼女には、彼のそんなこだわりが理解できたのかどうか、今となっては確かめるすべもないが……。
こんなシーンもあった。カスタムカーのコーナーにいた関係者たちの会話。
「なぁなぁ、あっちのバイクの（展示されている）方、行ってみた？」
「いや、まだだけど」
「スッゲェよ。向こうの奴ら、異様な奴らばっかりでさぁ、面白いから早く行ってみな」
私にいわせれば、カスタムカーのコーナーの人々も、バイクのコーナーの人々も、「異様さ」という一点で争うなら、甲乙付け難いものがあったはずだが、彼らの目には、そう映らないらしかった。
多種多様な嗜好をカバーするクルマやオートバイの歴史と伝統は、それを単なる道具にも、文化にもしてしまう点で羨ましいと思う。いつの日か、ジェットスポーツにも、そんな時代がやってくるのだろうか。
自分が16歳のときに流行っていたジェットスキーだとか、自分が18歳のときにバイトして初めて買ったオンボロの中古ジェットスキーだとか、欲しくても欲しくてもなかなか手の届かなかった憧れのジェットスキーだとか、そういった感覚で、自分の人生の一部に溶け込んでしまうような遊び道具に、ジェットスポーツもなれるのだろうか。
その答えが出るのは、きっとまだまだ先の話になるのだろうけど……。いつの日か、「ノスタルジック・ジェットフェア」なんてタイトルのイベントが開催されたら、どんなに楽しいことだろう。
……昔は、この機種が主流でね、何年乗っても技術の向上に決して終わりはなかったね。自分の実力以上には、決して速く走れないっていう、伝説の機種なんだけどね……。
