4月14日(金)~16日(日)の3日間、片添ヶ浜海浜公園 特設会場(山口県大島郡周防大島町)において、「ALL JAPAN JET SPORTS SERIES 2023 1st STAGE」と「AQUA BIKE 全日本選手権シリーズ(国土交通大臣杯)」の2カテゴリーのレースが開催された。
当日の天候は雨模様とあまり良くなかったが、そのおかげか水面はドベタの平水。マシンのポテンシャルが、勝敗を分ける重要な肝となった。
ここでは、「VINTAGEクラス 特集」「550 Aクラス」、「550 Bクラス」「X-2 650SXクラス」「SKI(800) X-2(800)クラス」の各クラスの戦いを紹介する。
なぜ、令和5年の「今」、約30年前のヴィンテージマシンが21台も集結するのか!?
今大会、この「550 Aクラス」で勝利したのは、元GPスキークラスに出場するプロライダーで、ジェットショップ店長でもある加藤 豪選手である。彼は、HEAT1、HEAT2ともに1位の完全勝利である。
加藤選手はもともとカワサキ4ストローク艇SX-RでGP SKIクラスに参戦していたが、世界的にVINTAGEマシンが最注目され始めた2019年から、JS 550でVINTAGEクラスに出場している。
当時、エントリー数も少なかったVINTAGEクラスは、レジェンドライダーの芳賀 毅選手や、日本のトップフリースタイラー・村尾高明選手らが主導し、「仲間内の競争」という雰囲気で始まった。
それがここ数年で、往年のライダーや新しいライダーを巻き込んでの大変な盛り上がりを見せるようになった。
当然、マシンも進化している。トップカテゴリー「550 Aクラス」では、なんと最高時速80kmを超えるのが当たり前の世界なのだ。
加藤選手のマシンは、村尾選手が造った最速マシンをベースに、更に彼独自のオリジナル・改良を施している。現在、間違いなく、日本で最高の完成度を誇る550なのだ。
しかし、550のような小さな船体で時速80km超のスピードで走るのは尋常なテクニックではない。普通に直線を走るだけでも、いつ吹っ飛んでもおかしくない。
それほど神経を使うマシンなのである。
GPランナバウトクラスが、「マシンの限界を超えている」と言われるように、この「VINTAGE 550 Aクラス」も、マシンの限界を超えている。
日本でのVINTAGE人気の火付け役であり、数多くの550モディファイマシンを製作しているのが村尾選手である。芳賀選手や加藤選手のマシンも村尾選手が手がけたもので、両者の「マシンのスペックは同じ」という。
彼のショップには、芳賀選手や加藤選手より「速いマシンを作って下さい」というリクエストが来るが、それは全て断っているそうだ。理由は、「パワーを上げれば壊れやすい」のと「キリがないから」である。
現在、村尾選手のショップでは「60万円」で造る550のベース艇と、最速スペックを施した「モディファイモデル」の2種類を販売している。
「今、ウチのマシンより速い550は日本にないので、これ以上、壊れるリスクを高める必要がない」「芳賀さんや豪君と同レベルの最速モデルを渡すので、あとはライダーが頑張って下さい」と村尾選手は言う。
「JS 550」という機種は、どこまで行っても、最後は「自分のスキル」で速くなるしかないマシンなのだ。だから余計に面白い。
ヴィンテージレースのブームは日本だけではない。2015年以降、アメリカのワールドファイナルで「VINTAGEクラス」に参戦する選手が増えている。この背景には、『誰もが簡単に乗れるような「足まわりキット」』が開発されたことにある。
そのキットを装着することで、乗りこなすのが難しいといわれた「JS 550」に乗るのが容易になり、往年のライダーから若手のライダーまでがスターティンググリッドに並べるようになったのだ。
それを日本に輸入し、キットを装着した550を販売し始めたのが村尾選手だ。
このパーツが日本に入ってきたことにより、30年以上前のジェットが数多くレースに参戦するようになった。
クルマでいえば、“クラッシックカー レース”と同じだ。「古いから」という理由でバカにされることもなく、むしろ「尊敬」を持って迎えられるのが「ヴィンテージ」という「文化」である。
自分の乗るジェットに深い“愛情”を持ち、同時に所有している“誇り”を抱いてレースに出場する。そんな姿は、素敵である。
近年のワールドファイナルを見ていて、絶版機種で走るレースが盛り上がっていることに驚きを隠せない。
アメリカのワールドファイナルで、ヴィンテージクラスに参戦していた選手は、「一見、気楽」にエントリーしているように見えても、皆、大真面目。ガチでレースに取り組んでる。
往年のレジェンドライダーから、キッズまで年齢的に幅広い層が参戦し、マシンスペックだけに頼らない「離れても追い付く」展開や、バランスを崩して順位を下げた選手が「見せ場」を作って巻き返したりと、最後まで目が離せないものだった。
マシンのカラーリングも、古いのになぜか新しく感じる。懐かしさと新鮮さが入り混じって、逆にギャラリーの目を惹いていた。
それを見ながら、「このクラスは、これからますます盛り上がる可能性がある」と思った。
「なぜ、今になってヴィンテージマシンでレースに出るか」と出場選手に聞くと、「乗れば分かる!」と満面の笑みで答えが返ってきた。
順位 | ライダー名(チーム名) |
---|---|
1位 | 加藤 豪(55 HEAVEN) |
2位 | 芳賀 毅(55 HEAVEN) |
3位 | 新谷 和久 |
4位 | 家中 克弥(KHKレーシング) |
5位 | 中村 貴司(TEAM SPEEDMAGIC) |
6位 | 佐藤 舞旺(TEAM SPEEDMAGIC) |
7位 | 石田 仁彦(55 HEAVEN) |
8位 | 山岸 孝善(マキタレーシング) |
9位 | 久米 由紀子 |
10位 | 安達 俊一(マキタレーシング) |
順位 | ライダー名(チーム名) |
---|---|
1位 | 中地 淳一(KHKレーシング) |
2位 | 佐藤 裕司(TEAM SPEEDMAGIC) |
― | 井上 良和(AG-RACING) |
順位 | ライダー名(チーム名) |
---|---|
1位 | 黒田 賢(AG-RACING) |
2位 | 池谷 高広(AG-RACING) |
順位 | ライダー名(チーム名) |
---|---|
1位 | 田﨑 由之(KHKレーシング) |
2位 | 若林 利雄 |
3位 | 紺田 茂生(フォート マイヤース F.R) |
4位 | 大中原 育美(55HEAVEN) |
5位 | 陣川 道子(55HEAVEN) |
6位 | 洲澤 啓司(フォート マイヤース F.R) |
7位 | 安達 珠栄(マキタレーシング) |
国内で初めて行われたJJSBA主催のレースは1984年からだ。そのときの初代チャンピオンが中村聡氏、翌85年、86年のチャンピオンが「前田“ドラゴン”一龍氏」だ。
ちなみに、87年が小川圭介氏、88年が松口博文氏、89年~91年までの3年連続タイトルが金森 稔氏と続き、92年が今でも現役で走り続けている“KING”竹野下正治選手である。
先日、とある縁で前田一龍氏と話をする機会があった。彼はもともと2輪レーサーだったが、ジェットスキー「440」に出会ったことで、人生が大きく変わった人である。
ジェットスキーがまだ日本に正式に販売される前からジェットに乗っていた前田氏は、「44/55以上のマシンはない」と言い切る。
「カワサキは、開発の方向を間違った。ジェットスキーの生みの親・ジャコブ氏の設計をもっとリスペクトしていれば、今のようにジェット業界が衰退することはなかった」と熱く語ってくれた。
もし、今でも世の中に「440と550」しかジェットがなかったなら、世間に「悪質な水上バイク」というイメージは付かなかった。
「そして真冬でも、多くのジェットユーザーが水辺にやってきて練習をする。熟練ライダーが若手のライダーを指導して、水辺は44/55で溢れていたはずだ。」と言って編集部を驚かせた!
この機種の熱量や思い入れの"最大の理由"は、この機種が「個人の"技量以上に走らせる"ことが出来ないから」金持ちも、貧乏も関係ない、練習だけが唯一無二の答えだと言う。
話の途中、つい前田氏に「今度一緒に乗りましょう。今の550は簡単ですよ!」と言ってしまった。その瞬間、「そんなのは550ではない」という顔をしたのを見逃さなかった。
彼が求め続けていたのは、「技量以上に走らせることの出来ないマシン」で勝つことだからだ。前田氏のなかで「簡単な550」というものは存在しない。
だからこそ思う。きっと今の550に乗っても、一番速いのは前田氏なのだろうな、と。
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