SX-Rは、カワサキの造った「新しいスタンドアップ」です。
事実上、800SX-Rの後継機種という位置付けになっていますが、全く違う乗り物。
船体は大きくて、ハルはV型。エンジンは4ストローク。重厚感がハンパない。
最高速も100km/h近く出る。
普通、ニューモデルのプレス発表会では、座学でその機種についてのスペックや特徴などが詳しく説明されるものです。
しかし、このSX-Rの場合、「とにかく乗ってください」と言われた……。
SX-Rに乗って、すぐにアクセルを全開にした。
まず最初に、トルクフルで力強い加速感に驚かされる。
体がジェットに引っ張られている。
恐怖感と、楽しさ、予想を上回るパワフルさに胸が躍る。
フロントが浮き気味で、リアが横ブレを自動補正してくれる。
気が付いたら安定性の高さに驚く。
立ち乗りで、時速100km/hで走行中に、これだけ安定しているなんて。
しばらくして、走りながら、ノーズ部分からサイドにかけて
水面と接して発生するスプレーに見とれた。
気が付いたら派手に転倒して吹っ飛んだ。
トップスピードで走行中、前を見ないで、下を見てる余裕などないのに、
初めて体験するSX-Rの水面とハルが接して発生するノイズの迫力に魅了され、
真下の水面を見続けていたのだから、吹っ飛ぶのは必然だった。
水の上を4回転した、吹っ飛ばされた場所から、70メートルくらい離れた場所で静止した。
まさに、初めての衝撃、頭の中が真っ白になった。
走行時のパワーが現代の「立ち乗り、最強マシン」なので、
転倒の衝撃も「現代最強」だった。
しかし、幸い奇跡的に怪我はなく、恐怖に震える体で、
遥か100メートル以上先の水面に小さく浮かんで見える
SX-Rに向かって泳ぎだした。
自分も懲りない男だな~とつくつく感じたのは、
泳ぎながらニヤついている自分に気付いたからだ。
「SX-Rスゲエや。全開で飛んだからもう大丈夫だ」
こう思っていたのが、ニヤつく原因だった。
何が「もう大丈夫だ」だ。
立ち乗りは、こけなきゃ始まらないという部分があるのだ。
最高速で吹っ飛んだら、「これ以上の痛みはない」と思えるので
ある意味、こける恐怖感が消えるのだ。
しっかりとフロントサイドが水を噛めば、力強く旋回する。
「自分で何かする」というよりは、車のように、
マシンが曲がってくれるから、しっかりと操縦するという感じ。
低速でも、ハンドルを切ってアクセルを開ければ、簡単にまがる。
初心者が簡単に乗ろうと思えば、アクセルを開けなければよい。
低速で楽しむだけなら、歴代スタンドアップの中では最強に簡単だ。
ならば、上級者が楽しむのはモノ足りないのか?
歴代最強パワーを乗りこなすのは、これまた大変なことなのだ。
初心者にも上級者にも、すべてのジェット乗りが夢中になれるノリモノだと確信する。
こんな乗り物他にない。
編集部は言い続ける。「とにかく早く乗ってみろ」と言う。
アクセルを握って、「フル加速」が癖になる。
アッという間に風になれる、唯一無二の乗り味だ。
スリリングな乗り物は世の中にたくさんある。
しかし、最高時速約100kmのフルスロットルで走り続けるだけで、
これほど「自分を、誇らしく思える乗り物」、
これほど「シンドクて、楽しい乗り物」は、他に思いつかない。
その反面、体への負担もハンパではない。
すぐに腕がパンパンになるが、「乗れば乗るほど上手くなれる」と感じられる。
スゴい! 楽しい! 素敵!!
コレが、私の「SX-R」の初乗り印象である。
アクセル全開で走っている最中に、不本意ながら吹っ飛んだ。
吹っ飛ぶ瞬間、「手を放さないでハンドルにしがみ続ける」か、「手を放して、パーンと吹っ飛ぶ」か、一瞬迷い、「飛んだほうが楽」だと判断した。
最初に転がったとき、ヘルメットの顎紐の留め具が壊れ、ヘルメットが外れて吹っ飛んだ。
そのまま5mほど向こうのほうに飛んでいくヘルメットを、自分も転がり続けながら眺めていた。
この瞬間、手を放したことを後悔した。
過去に経験のない勢いで、水面に叩きつけられながら跳ね転がる。
子供のころにやった、川に石を投げて段数を競う「水切りの石」になった気分。
ようやく転がるのが止まり、自分の身に起こったことを頭の中で整理した。
ゆっくりと右足を動かした。動く。左足、右手、左手が動いたのを確認したとき、なぜか、「俺はスゴい!」と思った。
ジェットは、70~80mほど先に、無傷で浮かんでいた。
それでも、私は気分が良かった。
最高速で吹っ飛んだ経験はありがたい。
最高速で吹っ飛ぶことに対し、むやみやたらと怖がる必要がなくなったからだ。
私は無傷で、もう一度、ジェットに乗るためにワクワクしながら水面を泳いでいる。
これこそが、まさに新しい「SX-R」なのだ。
最初は、どうやって乗っていいのか分からなかった。
体感したことのない強烈なパワーに、今まで以上に過激なフォームで乗ろうとしたのだ。
それを見ていた開発陣から、「ハンドルを切れば、勝手にバンクして曲がってくれる。曲がり終えてハンドルを戻し、進行方向を見ていれば勝手にマシンが起き上がって真っ直ぐ走ってくれる」と言われた。
新型ハルと強烈なエンジンパワーで、曲がるのだ。
だから、自分で無理に船体を押さえる必要はない。
なるほど……。
シンプル極まりない作業でOKなのだ。
SX-Rには、800SX-Rで使われていたものと同じパーツもたくさんある。
STX-15Fで使われていたエンジンも含めて、「どこかで見たことがあるような」部品も多い。
だから、乗る前の印象は、悪く言えば「寄せ集めで作ったジェット」だった。
なのに、乗ったら「ジェットも、とうとうココまで来たか」である。
スゴい! 楽しい! 素敵!!
コレが、私の「SX-R」の印象の全てだ。
ライダーを上達させようと、乗り手の気持ちを駆りたてるスタンドアップである。