世界を股にかけて活躍するメカニック・ちゅーた先生の奮闘記。前回はチームオーナーのムチャ振り要求を受けて、10艇のマシンを作ることになりました。今回はその続きです。
エンジンモディファイは順調に進み、最初にデューク艇、セトゥラ艇、マックルゲージ艇が仕上がった。近くの湖でマックルゲージ艇をテスト中、私が感じていた嫌な予感は的中した~。ブイコースを回っている最中、ハンドリングが急におかしくなったのでコース周回をやめた。
スポンソンでも外れかかっているのか? 確認後、大丈夫そうだったので直線を再度加速。100km/hを超えたあたりで、いきなりそれは発生した。
スピードが乗り、体を後方へ引き始めたとき、ハンドルバーが視界から消えた! 船体フロントがサブマリン!! 私はハンドルバーを飛び越えて、水面に叩きつけられ、反動でそのまま水面上を3~4回転。
遠心力で、手足が広がってしまうような格好で体が止まり、浮き上がったときには、艇と30mほど離れていた。てっきり、スクープゲートが外れた! と思った。
仲間に助けられ艇へ戻る。底を確認すると、ライドプレートのネジが全部外れ、スクープゲートフロントのネジ1本で留まっているだけで、全体が下に下がりブレーキ状態に。
そりゃ~、前転して吹っ飛ぶわなぁー。あ~、身体が痛いー。
早速、全艇のライドプレートボルトを船体貫通型に変更。これで、ボルトが折れない限り外れることはない~。
デューク艇は、ハンドリング、スピードともに問題なく終了。セトゥラ艇は古いエンジンのレストアのせいか、エンジンパワーがないためバックアップ艇にすることに。ライドプレート修理後のマック艇も、スピードも予定どおりで終了~。
まだ手つかずのファージング艇の製作に、早く取り掛からないとヤバイヤバイ。
ファージング艇が出来上がり、慣らし運転も終わっていた。しかし、問題が発生!! ポンプまわりからの異常な振動が、初期から発生していた。この状態では、まだ彼らに乗せることはできない。
なかなか原因が分からない状態でテストをしていた。これなら、いっそのこと原因の場所を壊したほうが良いと判断したので、アクセル全開でコースを走ってみた。
すると、エンジンあたりから鉄が擦れるような異音が聞こえはじめた。すぐに乗るのをやめ、船内を確認。やっと原因が分かった。
2つの問題が、全艇に発生しうることが判明した。急いで、全艇のドライブシャフトを外し、スプラインの変更。ドライブシャフトを繋いでいるカップリングの補強をする。
やっと、ファージングが乗れる状態になり、テスト開始。数周まわってすぐにファージングが戻ってきた。そして彼が、自分のハンドリングセットアップについて語り始めた。
「チュウタ! ランナバウトでも立ち乗りでもスポーツでも、俺のハンドリングセットで皆が乗れないことは知っている。あまりにも過敏すぎるからね。でも俺は、コーナー手前まで全開で入り、アクセルを戻す前に一度ハンドルを切って、船体の向きを変えるんだ」と言いながら、素早くハンドルを切る仕草をする。
「そして、アクセルを戻してすぐに握り直し、船体の向きを調整しながら立ち上がるライディングなんだ!」と……。
「今のハンドルレスポンスでは反応が遅すぎて、コントロールできない。調整できるのか?」
「ノズルの位置が高すぎて、アンダーステアだ。ドロップノズルは作れるのか?」
「ライドプレートは、違う形のものがあるのか?」
言っていることは良く分かる。
「取りあえず、ここで今できることをやるから30分待ってくれ」と伝えて、ハンドリング変更。
一番、レスポンスがクイックな場所に、ステアリングケーブルアームピボット位置を変更。ノズルを、2度アップ状態から、2度ダウン状態へ。ライドプレート後部ボルトに、シムを入れる。
ハンドルのレスポンス性、コーナー初期の船体フロントの高さなど、彼が好きなハンドルセットアップに変更。再度、ブイコースに戻る。変更が気に入ったようで、何周もブイコースを回り、親指を立ててサムアップしてコースを回っていた。
しかしこのときに驚いた、ファージングのライディング! ほぼ全てのスラロームセクションでアクセル全開!
まだ数分しか乗っていないのに、もうマシンが彼のコントロール下にある。順応性が高いのか、マシンが良いのか??
これを見た私、マック、セトゥラも、「やばい!!」と感じた~(笑)。
彼の息子も、自分の艇に乗り込みコースを回り始める。しかし、初めて乗る4スト1,500ccエンジンのトルクに驚いているようで、なかなかアクセルを開けきれない。
まだ腕の力がないのか、コーナー後の立ち上がりでアクセルを開けると体が後ろに持って行かれて、引き寄せることが出来ず、立ち上がりで跳ね上がってしまうー。
息子に、かなり激しく罵声を浴びせるファージングを見かねた奥さんが、止めに入ることもしばしば……。
「あなたとは、ライディングスタイルが違うんだから強制しないで!」。夫婦喧嘩は黙って見るしかありません~(笑)。
確かに、ファージングのセットアップで乗ると、息子はコーナーでスピンを連発。まともに走れません。なので、息子は初期設定のままが一番良かったようであります。シートだけは、お尻が止まるようにシングルシート仕様に変更しましたが……。
マックも到着~。早速、新造5艇のテストのため大きな湖へ。マックが自分の艇に乗り、テストに行く。そして、コースを数周回ったあと、直線で最高速テストを始めたのを確認した。
すると!! いきなり大きな水しぶき!? と思ったら、しぶきの中から水面上を転がりながらマックだけが飛び出してきた!
あれ!? また何か外れたかな??
怪我はないかと心配になる。マックと艇は50mほど離れていた。帰ってきたマックと話をした。
「チュウタ! いきなりマシンがどっかに行ったぞ! あー、首が痛い!」
船底を確認したが、何も外れていない??
数日前、このマシンに乗ってトップスピードを測って何もなかったのだが……。ポンプを外して確認したが、どこもおかしくない?? これは乗ってみるしかない……。
恐る恐るブイをまわるが何も異常なし??
そして、直線全開に。ん?? 大丈夫か?? と思った瞬間、波もない場所でノーズが1度、2度、バウンドし始め、3度めのとき、ノーズがいきなりサブマリンした!!
今回は、意識しながらだったので良く分かった。水面に叩きつけられる瞬間までがスローモーションであった~。マック艇のフロントカウルの朱色が視界に入り、次にフロントバンパーの黒色が視界に入った瞬間、水面に顔面が叩きつけられるのが分かった。
そして、すごい威力で体が「く」の字に曲げられ水中へ。肺の酸素が全部はきだされるのが、自分のうめき声とともに聞こえたら、今度は水中から両足を引き出されて空中に放り上げられ着水~。かなり悪い落水の仕方をしたようで、しばらく呼吸ができない。レスキューに来た艇にもすぐに上がれない状態……。
心配して他艇も集まってきた。再度HXに乗って帰るのは身体が無理だったので、私はレスキュー艇を運転して帰ることに。しかし、原因は理解した。
そして、他のライダーにファージングの息子艇を全開走行テストしてもらった。すると、同じように最高速エリアでサブマリン! ライダー発射。
ファージングが「ノーズが上がりすぎていて、高速でポンプが空気を吸ってノーズが下がり、潜っているのではないか?」と言う。そこで、マック艇のノズルを下げフロントを落とす。 再度、先ほど発射テストをしたライダーが名乗りを上げてくれたので、テストをお願いする。
ブイコースを数周回ったあと、最高速テスト~。だが、沖で再び大きな水しぶきが上がった……。やはり、ポンプノズルのサイズが問題のようだ。
ファージング艇は、オートドロップ仕様とノズルのリングを大口径に変更しテスト。ブイまわりはこのセットアップが気に入ったようでOKだった。そして最高速テスト。だが、ファージングは自分でテストをするのが嫌だという。
たまたまフランスから来ていたスタンドアップライダーに、無理やりテストをさせていたのには「根性なし!」と思った(笑)。
しかし、バウダウン現象はなくなったので、やはり原因は、ノズルリングのサイズが小さすぎてポンプが逆噴射していたようだった。
ファージングの走りを見て、マックから「俺も、オートドロップにしてくれ。スポンソンの角度を同じにしてくれ」とリクエストが来る。想像どおりの反応であった。部品を渡すから、自分が連れてきたメカニックにしてもらってくれと伝えた~。
次回は、ジェットスキーワールドカップ本番です~。(次回に続く)
中田正樹(なかだ・まさき)
【Profile】
元JJSFフリースタイル全日本チャンピオン。クリス・マックルゲージのメカニックを務め、2004年、2006年と、ワールドファイナルでのマックルゲージの優勝に大きく貢献した。2007年までアメリカのマックレーシングに在籍。現在は、フリーのコンストラクターとして、日本を拠点に世界中を飛び回る日々を送っている。ニックネームは「ちゅうた」、「ちゅーやん」。
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