
世界を股にかけて活躍するメカニック・ちゅーた先生の「ジェットスキーワールドカップ」奮闘記です。スタントマンかくやというほど、激しく水面に叩きつけられたり、ダスティン・ファージングのリクエストに応えたマシンを作ったりと、レースの前は本当にいろいろあります。
ようやく仕上がったマシンをレース会場に運ぶ途中で……。大変なことが起きてしまいます。
もうMonsterたちの艇をレース会場に送らなくてはいけない時期になっている。しかし、私はもう1日ショップに残り、マシンを仕上げなくてはならない~。 深夜遅くまでスタッフが積み込みをして、仕上がったマシン6艇を積んでトラックは出発した。 私は2度に及ぶ「発射事故」で、かなり体を痛めてしまったので鎮痛剤を飲んで深夜12時ごろに就寝した。
早朝、部屋の外で私を呼ぶ声がする。えっ、もう朝? 寝過ごした?? って、まだ朝の4時半じゃん?
ドアを開けるとスタッフが立っていた。
「チュウタ! 艇を積載した車が事故を起こした。マシンが壊れているようだから、引き取れるようになったら、すぐにパタヤに向かってくれ!」
日が昇り、必要な工具をかき集めてトラックに積み込む。事故車を収容している場所に引き上げに行く。結局、引き上げた後、パタヤに着いたのは木曜日午後5時ごろ……。
ファージング艇は船体側部が割れてしまい、ファイバーグラス修理が必要。
息子ファージングの艇はアクセルレバーが折れ、ケーブル交換が必要。
セトゥラ艇はライドプレートが割れていて、ファイバーグラス修理が必要。
マック艇もアクセルレバーが折れて、交換が必要。
デューク艇は、外見は大きな傷はないようだったが、船体の合わせ面が剥がれたようで、走行中にボンドフランジから水が入ってくる……。
全ての艇が、何らかの損傷を受けていた。
木曜の夜と金曜日の午前中で、全ての艇を修復し、テスト走行を終わらせる。 その夜に、まだ出来上がっていなかったライダー#32のマシンを必死に組上げる。テスト走行ができたのは、金曜日の夜11時半過ぎであった~。
台数が多いと、テストも長い。
手前が#32エンジン艇、奥が#5デューク艇。
写真左から、ファージング息子艇、セトゥラ艇、ファージング艇。会場へ向かう前なので、まだマシンは無事です。土曜日のレースが始まった。フリーダムレーシングのマシン6台がグリッドに並ぶ。 いつもなら、私もスタートグリットに行くのだが、今回は何があるか分からないので、チームテントの工具箱の前にいることにする。「何かあったらピットに戻れ」と指示だけをして……。
マックとファージングは、それぞれインコースとアウトコースに分かれた。そしてスタート! インのトップはファージング、アウトのトップはマックだった。そのままホールショットはファージングが取り、2位マック、3位セトゥラという順番。まあ予想どおりだ。
途中、トップのファージングがコーナーの最中に、アクセルから指がスリップOFFしたらしく転倒。そこでマックとセトゥラに抜かれ3位に落ちる。
だが、スラロームセクションで猛追したファージングが、2位のセトゥラをかわし、1位マック、2位ファージング、3位セトゥラという順位でMOTO 1が終わった。
インのトップはファージング(写真手前)、アウトのトップはマック(奥)。ホールショット争いはファージングに軍配が上がった。
ファージングを追うマック。
3位を走るセトゥラ。
ファージングに落水により、トップに立つマック。順位の変動があったら、すぐにオーロラビジョンに映し出される。
落水により順位を落としたファージング(写真奥)が、2位を走るセトゥラ(手前)を捉えて抜き去る瞬間。
MOTO 1を勝利したマック。小さくガッツポーズ。スタートで、数名がフライングを取られる。マックは取られていないはずだが、なぜかホルダーが勘違いをして、「ランヤードキーを外せ」と指示?? 大きく出遅れ、後続に巻き込まれる。
ホールショットはインコースのファージング、アウトコースはなんとファージング息子のデヴン君。親子で1位&2位で走り抜けていく。3位にセトゥラ。ファージング母ちゃんの興奮している姿が目に浮かび、笑いがこみ上げる。がははは~。
数周後、セトゥラが2位に上がり、デヴンは4位に入る。マックは追い上げたが、9位に終わった。マックは、追い上げするにはハンドリングが気に入らないようで、ドロップノズルは外し、ライドプレートにワッシャを入れて、ノーズが跳ねないようなセッティングに変更した。
それを見たファージングが、笑いながら私に話しかけてきた「クリスは、ドロップは気に入らないみたいだな」と、にやけていた。お互い、よく見てるね~。がははは。
次回、MOTO 3とMOTO 4のレースの様子です~。
アウトコースのホールショットは、ファージング息子のデヴン君。
オーロラビジョンに映ったデヴン君。
インコースのホールショットはファージング。合流ではファージングがトップに立った。
親子で1位&2位で走り抜けていく姿を見て、ファージング母ちゃんが興奮している。
途中、セトゥラがデヴンを抜いて2位に上がる。
デッドエンジンスタートのマックは9位に終わった。
中田正樹(なかだ・まさき)
【Profile】
元JJSFフリースタイル全日本チャンピオン。クリス・マックルゲージのメカニックを務め、2004年、2006年と、ワールドファイナルでのマックルゲージの優勝に大きく貢献した。2007年までアメリカのマックレーシングに在籍。現在は、フリーのコンストラクターとして、日本を拠点に世界中を飛び回る日々を送っている。ニックネームは「ちゅうた」、「ちゅーやん」。

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