YAMAHA『新開発 "1.9リッターエンジン "登場！』市販艇・最大排気量「 1.8リッターエンジン」が 14年ぶりに刷新、ベールを脱いだ New【 1.9 Liter High Output Yamaha Marine Engine 】の実力とは？　水上バイク　ウェーブランナー

2024「FX Cruiser HO」に、初めて業界最大「 1.9 リッター」の NAエンジンが搭載された

YAMAHA（ヤマハ）の『新開発 "1.9リッターエンジン "』が、2024年モデルとして発表されたウェーブランナー「 FX Cruiser HO 」に、搭載された。

自然吸気（NA）の新型1.9リットルエンジン「1.9L HO ENGINE（1.9 Liter High Output Yamaha Marine Engine）」が搭載された、初めてのモデルとなっている。

従来の1800cc エンジンは、マリン関係者やユーザーから高い評価を得ていたものであるが、今回の 1900cc は、1800cc の良い部分を踏襲しながら、さらに進化させているという。

YAMAHA（ヤマハ）の『新開発 "1.9リッター New HO エンジン "』が搭載された 2024年モデル「 FX Cruiser HO 」。

14年間も使われ、十分な実績と信頼性を得ている「 HO エンジン」を、なぜパワーアップしたのか？

従来の 1.8リッター HOエンジンは、2008年度モデルから採用され、それ以来、14年間に渡って使われている「信頼性の高いエンジン」である。

今回、1.9リッターにパワーアップした理由をメーカーに聞いたところ、「信頼性も含めて成熟した 1.8リッターエンジンを、1.9リッターにモデルチェンジすることで、さらに商品性を上げました」という答えが返ってきた。

新しいエンジンは、ほとんどの部品が新しく作られたものだ。

ヤマハサイドは、「マイナーチェンジ」といっているが、実際のところ、これだけ大幅に変更していたら「フルモデルチェンジ」と言ってもいいのではないかと思っている。

「1.9L HO ENGINE（1.9 Liter High Output Yamaha Marine Engine）」を搭載した「FX Cruiser HO」。

シリンダーのボアアップ

排気量は、業界最大の 1.9 リッターとなった。

具体的な改良点は、シリンダー径を φ86 から φ88 にしたこと。

それに伴い、ボディシリンダー自体も強度に耐えるため改良を加えた。

ボアアップしただけではなく、ボディシリンダー自体も変更している。

シリンダー径を、φ86からφ88にアップ。

ピストンの変更

シリンダー径を上げたことで、ピストン径も φ88 にアップ。

圧縮比も上げて、燃焼効率を向上させた。

このとき、単純にピストンを φ88 にすると重くなってしまうのだが、新しいピストン形状に変更することで、軽量化を実現。

ピストン総重量が増えない工夫を行っている。

シリンダー径を上げたことにより、ピストン径も φ88 にアップした。さらに形状を見直すことで、軽量化を実現している。

スロットルボディの変更

スロットルボディの口径は、従来の φ60 から φ65 に拡大。

フレームアレスターも 88mmに拡大し、吸気抵抗が低減されている。

これにより、従来よりも多くの酸素を取り込める。

スロットルボディの口径は、従来のφ60からφ65mmに拡大した。

エキゾーストマニホールドの変更

エキゾーストマニホールドは、マフラーの集合形状を変更。

従来は 4本から 1本に絞られる形だった。

そのため、両端のポート（排気の通る管）の長さが短くなっていた。

新しいエンジンでは、4本から3本、そして 3本から 1本とすることで排気管長を最適化。

1 本のポートの長さを長く取れるように改良して、性能を上げている。

これらの改良により、従来エンジンから 5%の排気量アップながら、15% の出力向上を実現した。

マフラーの集合形状から見直したエキゾーストマニホールド。

吸気系の改良

吸排気系の性能向上のため、各部のチューニングが行われている。

シリンダーヘッドは、吸気ポートと燃焼室形状（スキッシュ廃止）を変更し、吸気効率を向上させた。

吸気の管長を変えることで、空気を多く入れられるように工夫している。

「冷却の最適化」のため、「冷却経路を変更」

エンジンの冷却について、1.8 リッターエンジンでは、ボディ、ヘッド、交互に冷却水を流していた。

しかし、1.9 リッターエンジンでは高出力化を狙っているので、ヘッドを先行的に冷却する経路に変更されている。

ヘッドシリンダーを効果的に冷やすことで、ボディシリンダーの冷え過ぎを防止した。

開発担当者に聞く「新しい HOエンジン」

WJS　今回のモデルチェンジで、来年発売される全ての HOエンジンが 1.9リッターになるのですか？

ヤマハ　はい。HOエンジンが搭載されている24年モデルは、全部 1.9リッターになります。

これだけ大幅に変えてしまっているので、1.8 リッターから見たら、1.9 リッターの部品はほとんどが使えなくなります。

WJS　これだけ多くのパーツを変更しているのに、「フルデルチェンジ」ではないのですね？

ヤマハ　今回でいえば、1.8リッターのいいところをそのまま活かして使っていますので、「マイナーチェンジ」と我々は言っています。

WJS　他メーカーは、馬力を上げるのにストロークをアップすることが多いので、ヤマハのエンジンもそうだと思っていました。

でも、話を伺うと全く違います。ストロークのアップとボアアップでは、ボアアップのほうがいいのですか？

ヤマハ　どっちがいいというのはないと思います。

多分、どの設計者さんに聞いてもそうだと思いますが、むしろ「どういうコンセプトで作りますか？」だと思います。

背を高くしたくなかったら、ストロークを上げないでしょうし。

WJS　ということは、新しい HOエンジンでは、背を高くしたくなかったということですね？

ヤマハ　すでにもう、十分高いですから（笑）。

エンジンの開発担当者のひとりである、諸田高一郎氏に話を聞いた。

エンジン性能を上げても、重量は重くしない

WJS　新しいエンジンは、パワーもボアも上がっているのに、なぜ軽量化に成功しているのですか？

ヤマハ　先ほど「ボディシリンダーを作り直した」と説明させていただきましたが、このエンジンは「鉄のスリーブ」を使っています。

ウチの3気筒もそうですが、他メーカーさんでもメッキシリンダーを使っていると思います。

今回、素材を変えたことでメッキシリンダーのスリーブが薄くなりました。

薄くなった分、軽くなる。

エンジンの大きさを変えないで、スリーブを薄くしたことで、重量としては軽くなっています。

それと、「いかに空気を入れるか」が NAエンジンのポイントなので、そこに注視して、今回は開発をしました。

WJS　燃費はどうですか？

ヤマハ　基本的に「性能＝燃料の量」なので、現行の HO（1.8リッター）と比べると悪くなります。

同じように走ったら、こっち（1.9リッター）のほうが性能を出している分、燃料を食います。

でも、スーパーチャージャーと比べると、（NAの）1.9リッターのほうが良いのは決まっています。

「性能の数字＝燃料の消費」ですから。

WJS　今、スーパーチャージャーの話が出たので教えていただきたいのですが、ヤマハの SVHO モデルは、他のメーカーのスーパーチャージャーモデルと比べて馬力数値が低い。

それなのに、「非力だとか、スピードが遅い」とは全然感じません。これはエンジン排気量のおかげですか？

ヤマハ　我々は、「エンジンと艇体のトータルパッケージ」で考えています。

「トータルでどうか？」という見方をしているため、馬力だけで比べることに意味はありません。

「商品としていいものを作る」というなかで、それが全部自分たちでできることがヤマハの強みです。

今回の HOエンジンについていえば、軽量・コンパクトで高出力。しかも信頼性が高いです。

今までの 1.8リッターのいいところを伸ばして、1.9リッターエンジンを開発できたと思っています。