来年の10月より「インボイス制度」が開始されます。
私は水上バイク専門誌の外注ライターをしておるのですが、「インボイス制度」が開始されるので『会社から、税務署に行って“登録番号” を貰って来て』と言われた。
私が毎月請求している、請求書にこの“登録番号” を記載するように指示されたのです。何が“どうなる”のか理解できずに不安でした。
それで税金のプロフェッショナル、税理士の湖東先生に「インボイス制度」とはどういうモノか?
なぜ、税務署に行かなければならないのか?を詳しく聞いた。
その結果、「インボイス制度」とは新たに導入される“税制”で、私のようなライターの個人自営業者にとっては“非常”に厳しい”税金の制度”ということが理解できた。
前回、【「インボイス制度」とは? 国と税務署が一体となった詐欺だ! 消費税と同じ、お金のない人から税金を徴収するための制度! 水上バイク誌・外注ライターの嘆き】という記事を掲載した。
実際にこの制度が始まったら、「何がどう変わるのか?」を知りたいというご意見も多くいただいた
また、「免税事業者は“消費税を払わない”からズルい!」「インボイス制度とは、“税金逃れ”の人からも“平等に徴収する”制度」というコメントも少なからずいただいている。
そこで、第2弾として、湖東京至先生に「来年10月からインボイス制度が始まったら、日本の零細企業に何が起きるのか」を聞いてみた。
―― 税金逃れの“免税者”は“悪い人”で、消費税のインボイス制度は「すべての人から平等に“平等に徴収する”良い制度」という声を聞くのですが、実際にそうなのですか?
湖東 違います。インボイス制度はアンフェアな“弱い者イジメ”の“悪い制度”です! そして最初にハッキリ言っておくことは「消費税が悪法」だということです。
そして免税事業者は、憲法でも“認められている”のです。「悪」ではありません。
憲法第25条【生存権】に、「すべて国民は、健康で文化的な、最低限度の生活を営む権利を有する」とあります。
税制は憲法の原則から、「負担能力に応じて、累進的に課税すべき」ことが求められます。「所得の低い者には軽く、高い者には重い負担にする」が原則で、「応能負担原則」といいます。これが25条の「最低限度の生活」と結びつくわけです。
要するに「所得の少ない人から、税金は徴収しない」ということが定められているのです。少なくとも、生活費には税金を“かけない”ことが必要です。
消費税制度の導入時(1989年)には、「売上3000万円までの零細事業者」が免税事業者とされていた。しかし今は、「売上1000万円」に下げられている。
「“免税制度”がなければ、零細事業者からの大反対を受け、消費税の導入自体が“難しかった”でしょう」と湖東先生は言う。
湖東 『知識のない人が、「免税事業者を“なくせば”平等」などと平気で言いますが、国や財務省は「憲法上の概念」から“それ”ができません。
しかし本音は、「免税事業者を“なくしたい”」。だから、「インボイス制度」を導入することで、自ら“免税事業者の立場”を“放棄せざるえない”ような「世の中の仕組み」に変える“つもり“なのです。
「売上1000万円」までの零細事業者が、売上から経費を差し引いて“残る金額”など微々たるものです。
昨年度、“過去最高の売上を計上”した“トヨタの輸出還付金”は“600億円”を超えています。赤字の零細季企業にまで課税をするのに“大企業には莫大な還付金”。こういう制度の“消費税が正しい”と言えますか?
日本は“零細企業の数”の方が大企業よりも圧倒的に多い。国も役人も“大企業の方”ばかり向いているなか、普通の国民が“間違った知識”で零細企業を“責めるのは悲しいです”ね。零細企業や中小企業の中から、明日の日本を“支える会社”が出てくるかもしれないのに……』。
―― 「我々から預かった消費税を、免税者は“自分の懐“に入れている」という声をよく聞きます。「その“預り金“を、納税するのは当然だ!」という“人“もいる。これについて湖東先生はどう思われますか?
湖東 まず最初に「消費税は“預かり金”」ではありません。消費税は“分かりにくい“です。導入されてから33年経った今でも、“知らない人”が多すぎる。「消費税」は、「消費者とは無関係」の税金です。
「消費税」という税金は、小売りの“1個1個にかける”税金ではない。我々が「消費税」だと思って払っている金額は「商品代金」なのです。
事業主は、消費税を「預かっている」のではなく、「自ら税額を計算して申告し納税する」制度のことです。
―― 輸出企業がもらっている還付金とはまた違うのですね?
湖東 輸出大企業が還付してもらう「還付金」とは「仕入れのとき、国内で支払った“消費税相当分”」です。「消費税額がこのくらい」と企業側が計算した金額を、還付して“もらっている”わけです。
話を戻しますが、価格表記されている消費税分は、あくまでも“商品価格”そのものであり、消費税分が含まれた金額ではない。だから「消費者から“預かっている”お金」ではありません。これも消費税のまぎらわしい部分です。
消費税が導入された年に「免税事業者などが、簡易課税を採用し、税金を“詐取している事業者”がいる。自分の払った消費税が、国に入っていない」という裁判を起こした人がいました。
判決は「あくまで商品や役務の提供に対する、“対価の一部”としての性格しか“有し”ない」というものです。消費税は、我々から“預かっているお金”ではないと、裁判所でも認めているわけです。
―― 来年10月から正式に「インボイス制度」が始まったら、何が一番“変わる“のですか?
湖東 インボイス制度で“街の中“が変わります。例えば、男性が散髪屋に行きますよね。ごく少数、俳優さんのような人が行ったときに領収書をもらいます。しかし、散髪屋が免税事業者であれば、その領収書では控除になりません。
散髪屋さんは、たった一人の俳優さんのために「適格・領収書」を発行することになります。小さなお店が、免税事業者で“いられなく“なる。
個人タクシーもそうです。彼らの年収は500万から600万円が多い。しかし、登録番号を取らなかったら、彼らのタクシーに法人は乗らなくなります。理由は、「仕入れ税額控除」ができなくなるから。結果、個人タクシーは“なくなって“しまいます。
―― 「適格・請求書」や「適格・領収書」にしなかったら、その請求書や領収書を貰った人が不利益を被るのですね?
湖東 支払先が免税業者の場合、番号がない事業主と取引をすると、消費税の“仕入れ税額控除“ができなくなる。要するに、「支払う側が、消費税を“負担しなければ“ならない」ということです。
ヨーロッパには「適格・請求書」「適格・領収書」しかありません。小さなお店の領収書にも“すべて番号が記載“されています。向こうでは、ある種の“ステータス扱い“なんです。「1千万円の売上がある」という証拠ですから。
日本も近い将来、コンビニから何から何まで「番号付きの適格・領収書」を発行するようになります。
だけど、それを消費者がもらっても、何にも“使えない“んです。使うのは控除をしてもらう側、「親会社」だけです。
―― 本来なら「登録番号」が必要ない事業主もいるわけですよね?
湖東 だけど、いつ何時、誰が買いにくるか分からないコンビニや小規模の販売店でも、準備しておくしかなくなる。
「インボイス制度」が定着すると、世の中に“本当の意味“で“零細な事業者“がいなくなります。
―― 課税売上高が1000万円以下の事業者は、「事業者免税点制度」によって“消費税が免除“されています。対象になる事業者には「益税」が発生しているのでは? といわれていますが?
湖東 例えば、個人タクシーは「初乗り420円を“懐に“入れている」と聞くと、420円の10%を“懐に入れている“ように聞こえます。でも違います。通常の場合、消費税は“仕入れ税額控除ができる“のに、個人タクシーはできない。クルマを買っても“仕入れ税額控除“ができないんです。
クルマのような大きな買い物でも、仕入れ税額控除が“できない“ということは、「益税」もあるけど、「損税」もある。そう言うことを理解しないで、「益税」だけをクローズアップするのはおかしい。
個人タクシーは「10%を懐に入れている」という論理で徴収を進めようとしているのは、本当に“よろしくない“理論です。
―― では、何のために「インボイス制度」をやるのですか?
湖東 将来の消費税率の引き上げのためです。
今は“10%や8%”だけど、将来は”15%、20%”とドンドン”引き上げて”いきたい。そのときに、仕入れ税額控除ができない免税事業者がいると困る。これが本音。
日本には”零細事業者の数が多い”ですが、国は「大企業優遇」の考えが強い。極端に言えば、「零細企業は”なくなって”も良い」という考えです。
―― それはひどい話です。
湖東 「適格・領収書」「適格・請求書」のように番号が入ったものが電子化すれば、国税庁は今より簡単に企業間取引の内容が掴めます。世の中は”ますます”キャッシュレス化していきます。そのときに、「番号」がある”インボイス制度”を導入することで、資金の流れを明確にできるわけです。
―― 法人企業には“法人番号”がありますが、それとは“また違う”番号になるのですか?
湖東 法人の場合、今もらっているマイナンバーと同じように、“13桁の法人番号”があるんですが、この数字の前に「T」を付けるだけです。しかし、勝手には付けられません。税務署に届け出を出して、この「T」をもらうんです。課税事業者の人も、必ず申請書を出して「番号をもらう」ということです。
―― そうなると、「偽の番号」が出てくる可能性もありますよね?
湖東 “偽インボイス”は“必ず出てきます。理由は、「番号を“もらえない“商店がある」から。実際、ヨーロッパではたくさんあります。
この制度が始まったら、適当な13桁の数字に「T」をつけて“領収書を発行“する人も出てくるでしょう。でも、発覚したら50万以下の罰金または、1年以下の懲役になります。
―― その番号が偽物かどうか、調べる方法はあるのですか?
湖東 調べる方法を税務署が発表しています。国税庁のHPに、その番号を打ち込んで検索できるサイトがあります。おかしいな? と思ったら調べなさい。「経費控除できませんよ!」というわけです。
―― 領収書や請求書をもらったら、我々がいちいちその番号を入力して調べることになるのですか? かなり面倒ですよね。
湖東 民間同士のケンカが始まりますよね。
―― 売り上げが1000万円以下の業種は、どうして「免税」になっているのですか? 最初から税金を徴収していれば、こんなことはなかったのでは?
湖東 その理由は“支払い能力”です。「売り上げが1000万円以下の事業者」は、仕入れや経費を差し引いたら、いくらも手元に残らない。そんな人から税金を徴収しようとすれば、滞納ばかり増えてくる。
だから最初(1989年)の免税事業者の条件は「3000万円」でした。そういうふうに消費税を導入しておいて、結局1997年には1000万円まで免税額を引き下げた。
そして今回、1000万円までの免税事業者が「免税のままでは商売できない」ような“政策で縛ろう”としている。これは「国の詐欺」です。
「生業」というものに対する“国の攻撃“だと思っています。従業員が1人もしくは2人いれば、1000万以下の売上ではしんどい。“大工の一人親方“か“カメラマン“か分かりませんが、一生懸命、自分の職業を「生業」だと信じて取り組んでいる人に対する攻撃です。
―― それをやったら、どれくらいの負担が事業主にかかってくるのですか?
湖東 政府の試算だと、一人当たりの“税の負担額は16万円ぐらい”だそうです。だけどこれは現況の“消費税10%”の話です。
いずれヨーロッパ並みに“20%近く”まで引き上げたい国からすれば、大きな金額になりうる話なのです。これは財務省をあげて、国が「消費税」というものの導入を決めたときから、「いずれはそうしよう」と考えていたわけです。
―― 免税事業者から、“反対の声”は“上がらない”のですか? それほど、ニュースに“なっていない“ような気がするのですが?
湖東 来年10月からインボイス制度が始まりますが、この制度の“いやらしい“ところは、「適格・領収書」でないと“100%仕入れ税額控除ができない“はずが、最初の3年間は「80%は引いてやる」と国が言っているんです。そのあとの3年間は50%を引いてやる。6年かけて導入しますというわけです。
6年間はいわゆる訓練期間、零細事業者は6年かけて「辞めなさい」と言っている。インボイス制度が定着するまで、国民が騒がないように“ごまかし”の一種なんです。
親会社に言われて“番号を取得させる”ように仕向け、気が付いたら6年かけて免税事業者では“なくなっている“という寸法です。
“不透明を正す“というために導入するインボイス制度なのに、非常に“不透明なやり方“で採用しようとしている。6年間は“仕入れ税額控除“があるから、大きな騒ぎは起きない、世の中が詳しい「インボイス制度」を“知らないうち“に導入し、知らなくても“大騒ぎしない“仕組みを“組み立てる“。知ったころには「もう遅い」というわけです。
―― 零細企業や中小企業の場合、今は免税業者か、簡易課税か選べるようになっています。簡易課税も同じように「登録番号」が必要になるのですか?
湖東 今、年間売り上げが5000万円以下の会社は「簡易課税」というのが選択できます。 簡易課税というのは、消費税の仕入れについては、詳細な面倒な計算を止めて、課税売上等にかかる消費税額に「みなし仕入率」をかけるだけです。
みなし仕入率は、業種によって固定の値が決められています。申告のときに、「どういう請求書があるか出さなくてよい」というのが、5000万円以下の会社に認められている「簡易課税制度」です。これがおかしい。
インボイス制度でキチンとすると言うのなら、この簡易課税制度もなくさなければおかしいです。現行、この簡易課税制度を使っている会社は日本中の4割にあたります。今後、インボイス制度で免税事業者がなくなれば、簡易課税制度を使う人はもっと増えます。
―― 簡易課税制度だと、インボイスの番号は“いらない”のですか?
湖東 簡易課税制度の会社には、「番号付きの適格・領収書」ではなくても、消費税の“仕入れ税額控除”ができるのです。おかしな話ですよね。
ただし、この簡易課税制度は「消費税の“計算が簡単”になる」というメリットがあるのであって、「税額が少なくなる」ことがメリットではない。場合によってはキチンと計算したほうが、税額が安い場合もあります。いずれにせよ、この簡易課税制度というのは、長く使うのに適しません。
―― 現在、免税業者というのは“どれくらい”いるのですか?
湖東 今、課税されている業者は全部で300万件です。免税事業者は1000万件もいるんです。
「俺は簡易課税なんてやらない」「廃業だ」「免税のままでいい」といっても、半分の500万件は簡易課税事業者になりますよ。
今の300万件の事業者だけでも税務署は大忙しなのに、あと500万も増えて大丈夫なんですかね。しかも、滞納が増えます。財務省は、これをやらせようとしています。
こういったことを、商売をやっている人なら”知っていなければならない”はずなのに、みんなが“知らない”んです。 消費税が導入された頃も、本質的なことは知らされていなかった。
しかし、税率も低かったので“その痛み”は少なかった。今、10%だけれど、増税の話も出てきている。経団連が消費税率19%を提唱している。国も消費税率を上げたがっている。
今後、「インボイス制度」が始まり、消費税率が上がれば「売上1000万以下の免税事業者」の経営は“”立ち行かなくなる”と思う。消費税の導入時も税率が低く、知らなくても“痛み”は少なかった。
来年の10月から始まる「インボイス制度」も6年間は“痛み”が少ない。しかし、知ってないと、いずれにせよ“困る日”が必ず来る。
「インボイス制度」とは? 国と税務署が一体となった詐欺だ! 消費税と同じ、お金のない人から税金を徴収するための制度! 消費税の権威、湖東先生に聞く
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