海に出る人が使う天気予報「マピオン」を知っていますか？「水上バイク専門誌」が“マリーナ”のマスターに“叱られた”話！　ジェットスキー（水上バイク）

あんた、マピオンも知らないの？　と言われた日

10年以上前、「大航海時代」というテーマで記事を制作するために、日本全国の海で「水上バイクで長距離を走る、ロングツーリング」を行っていた。

上陸先を求めて、千葉県館山市のとあるマリーナに電話したことがある。

「あんた、水上バイクの本を作っているのに“マピオン”も知らないの？」

初っ端に、マリーナのオーナーに言われた一言がこれだ。

（※ここで言っているマピオンとは、株式会社ONE COMPATHが提供している日本の地図検索サービスのなかにある天気予報ページのことを言っています）

「明日（ツーリング予定日）は風速８mの予報だから係留できないよ。天気予報では“風速と風向き”を見なきゃ“晴れ”でもダメだよ！」と、頭ごなしに叱られた。

翌日、彼の言うとおり、波が高く出港停止のお達しが出た。

「マピオン・天気予報」には時間ごとの、「天気、気温、降水量、風向き、風速」が表示されている。

地図検索サービス「マピオン・天気予報」が繋いだ不思議な縁

出発は埼玉県八潮市のマリーナだった。

中川から荒川を走って東京湾に出たら予報通り、風速８mの風にさらされ海は大荒れだった。アクセルを開けても前には進まず、真上に飛ぶしかない有様だった。

荒れた海面を避けるため、葛西臨海公園の緊急避難水域から電話をかけ、ツーリングを中止する旨を伝えた。

「そうだろう。ハハハハ」と豪快に笑われて終わったのである。

電話での話っぷりからして、オーナーは、腕が太くて威勢のいい偉丈夫なアンチャンだと、私は勝手にイメージしていた。

その年の冬、再度、館山にツーリングに出かける機会に恵まれた。

前回と同じ轍を踏まないよう、しっかりマピオンを確認してオーナーに連絡をした。

「マピオンを見ました。風速３mだから行けます」と言う私に、「風向きは調べたの？」と聞かれた。風向き……って何？　風速しか調べていない。
「往路は追い風だけど、復路は向かい風になるから要注意だよ」と、教えてもらった。

海では、風向きで、水面状況まで分かるのだ。

いつ行っても歓迎してもらえる。そんな関係が築けることが嬉しい

出発し、無事に館山に到着。

見えてきた砂浜で、温和そうな年配の男性が、笑顔で手を振っている。想像と全く違ったオーナーは、快くマリーナに迎え入れてくれた。

店内の雰囲気を感じ、食事を供されるほどに、海を生業の場とする氏の人となりが身にしみてきた。彼にとって、風向きや風速を調べるのは、食事と同じくらい当たり前のことなのだ。

それすら知らずに館山まで行こうとした私は「無知で無謀なジェット乗り」。あの叱咤も、「ロングツーリングに出るのなら、せめてそれくらいは勉強しなさい」という心遣いからであった。

我々がどのような冒険をしてたどり着いたのか、多くを語らなくてもオーナーには想像できるのだろう。

「このヤンチャどもが、しょうがないなあ。よくここまで来たものだ」という、優しいまなざしが感じ取れた。同時に、海で遊ぶのが本気で好きなヤツ、と分かってくれたようだった。

このとき私は、直に会って言葉を交わし、お互いの態度を示しあったことで、上陸拠点が増えた以上の何かをもらった気がした。その場にいた仲間もそう感じていたに違いない。

ランナバウトの性能が飛躍的に向上し、長い距離を走り続ける楽しさも、大いに味わえるようになった。そんな場合、いつでも快く受け入れてくれる場所があると、ジェット乗りには嬉しい。とりわけロングツーリングの場合には本当に安心できる。

海は広い、まだ見ぬ水面を、思いっきり駆け抜けよう。