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日本人で唯一の世界チャンピオン・ベテランズスキーGPクラス 2019年 ワールドファイナル ジェットスキー(水上バイク)のメジャーレース

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スキークラスを席巻した「KOMMANDER(コマンダー)GP1」

今年のワールドファイナルで、日本人で唯一、世界チャンピオンとなったのが佐々木宏樹選手である。彼は、ベテランズクラスに参戦し、見事にタイトルを獲得した。

佐々木選手の駆るマシンは、「KOMMANDER(コマンダー)GP1」である。コマンダーは、2008年にスティーヴ・ウェブスター氏によって設立されたショップで、2014年から、元世界王者のダスティン・モツリス選手が共同経営として参加。現在は、モツリス選手が代表を務めている。

コマンダー製マシンといえば、昨年(2018年)のワールドファイナルのプロスキークラスで、クエンティン・ボッシュ選手が世界タイトルを獲得。レース艇の戦闘能力の高さには定評がある。

佐々木選手は、昨年、コマンダーGP1を購入し、今年の国内シリーズ戦を戦っている。今回のワールドファイナルには、そのマシンではなく、新たに購入したコマンダーGP1で出場し、勝利を収めた。その佐々木選手に、コマンダーGP1というマシンと、今年のワールドファイナルについて語ってもらった。


レースの数日前に初めて乗った「今年のニューマシン」で勝った佐々木宏樹選手

完璧なホールトゥフィニッシュの快勝。

このレースだけ見ていたら、次も楽勝と思えたのだが……。

ブッちぎりで勝ったMOTO 1

WJS ベテランズスキークラス(Veteran Ski Class)の優勝おめでとうございます。
佐々木 ありがとうございます。

WJS 今年のワールドファイナルでは、去年と比べてコマンダーのマシンに乗る選手が多かったですよね。去年は、プロフォースやブレットV3も多かったですが、今年はほとんどがコマンダーのGP1でした。
佐々木 そうですね。ほんとにもうびっくりしました。

WJS 今回のワールドファイナルは、出場したのはベテランズクラスだけですか?
佐々木 はい。エキスパートクラスは、またレギュレーションが変わって出られなくなったので。

WJS ベテランズクラスの第1ヒートは、余裕の1位でしたが、第2ヒートはどうでしたか?
佐々木 手伝ってくれた藤井(亮平)さんや、ホルダーをしてくれていた湯島(浩一)さんから、「守るなよ」って言われたんです。守ったら、多分、ヘマをするから攻め続けろって言われて。そのときに「今、この場所で僕は、そんなに結果を求めていない。それだったら、とことん攻め続ける。どれだけブッちぎりで1番を走っていようが、2位との差をもっと広げるっていう気持ちで走る。それでぶっ飛んだら、そのほうが格好いいと思う。とにかく攻め続けます」って。

ホルダーの湯島浩一さん(写真左)と、佐々木選手(右)。

このヒートも、ホールトゥフィニッシュを決められると思いきや……。

MOTO 2のホールショットは、佐々木選手ではなく、ブレットV4に乗るアメリカのジョン・ガスパロン選手。

ホールショットを取ったガスパロン選手(手前)の横にいるのは、フランスのデュフォー・フィリップ選手(奥)。

佐々木選手は、フィリップ選手に次いで3位。彼を抜かないとチャンピオンになれない。

最後まで必死でフィリップ選手(写真右)を追い抜こうと、佐々木選手(左)がラスト3周で勝負をかける。

最後まで攻め続けたMOTO 2

WJS レース内容も、ヒート2では最終ラップで3位から2位に上がりましたよね。
佐々木 1周目にブレットV4に乗るライダーに前に行かれたんです。あれがインコースとアウトコースで分かれてたら、全然大丈夫だったと思いますけど、グリッド決めのとき、ブレッドのV4が、わざと僕と同じアウトコースに来たんですよ。最初に、僕をつぶそうと思っていたんでしょうね。で、前に行かれたけど、レースは10周ある。1周目の合流で3番だったんで離れないようにして、相手にプレッシャーをかけて疲れさせて、選択で抜こうと思っていました。

WJS 自分の中で、何位だったら優勝というのは分かったんですか?
佐々木 分かってました。2番手を走っているライダーの前でゴールすれば、チャンピオンって分かっていた。それと、前に走っていたフィリップ選手の体力がないのも分かっていました。4周目くらいまで、1位も2位も選択コースはずっと同じアウトコースで、インには行く気がない感じ。それを見たときに、「ああ、これはもう選択コースで勝負するしかない」と思って、残り3周になったときに、僕が選択コースでインに行ったんですよ。でも結局抜けなくて、3位のまま。もう1周、2位のフィリップ選手の後ろを走って、ずっとプレッシャーかけてから、最終ラップの選択コースで、再度、インコースに行って抜いてやろうと思っていました。ミスがなければ抜けるはずだと思ったんです。

WJS でも、レースを見ていたらアウトコースのほうが速かったように見えましたが?
佐々木 ラスト3周目にインコースに行ったとき、実は1回ミスしているんです、僕。あのミスがなかったら、抜けていました。だから、次の1周はもう1回我慢して、最後にインコースで勝負と思って。全部、運と天が味方してくれました。

WJS 今回のレースでは、結果は求めていないと仰っていましたが、やはり勝ちにもこだわりますよね?
佐々木 自分が納得いく、良いレースがしたいだけです。

WJS そういった意味では、今年、最高のレースでしたね。
佐々木 そうですね。

なぜ佐々木選手は「コマンダーGP1」を選んだのか?

レース終了後、観客席に手を振って応えるホルダーの湯島さん(写真左)。ホルダーも、レーサーと共に戦っているのだ。

SX-Rの登場により、1ブイまでで全艇に抜かれる屈辱を味わった国内の開幕戦

WJS 一昨年の2017年にコマンダーのGP1を購入されましたよね。いろいろなメーカーのマシンを乗り比べた末に、コマンダーにしたのですか?
佐々木 いや、乗り比べてないです。実はあのとき、カワサキSX-Rに乗っていたんですが、それが面白くなくて……。僕はもともと、ヤマハのスーパージェットに乗っていたのですが、それは、自分の思い通りの走りができていた。でも、SX-Rはそうではなかった。やっぱり、マシンは自分の思うように動かせないと面白くないんです……。

WJS SX-Rは面白くなかったのですか?
佐々木 全然、つまらなかったです。全く違う乗物に感じました。スーパージェットに乗っているときは、練習するのも面白かった。SX-Rはボートが大きすぎて、ランナバウトに乗ってるような感覚っていうんですかね。僕、ランナバウトに乗って面白いって思ったこと1回もないんで……。そんな感覚に似ていたのかもしれないですね。でも、SX-Rじゃなきゃレースが勝てないから、我慢してというか、自分が面白いと思えるようにしようといろいろやったんですけど、やっぱり駄目でした。

WJS 佐々木プロがレースを始めたのはいつごろですか?
佐々木 2012年か13年ごろですね。

WJS そのころ、マシンは何に乗っていたのですか?
佐々木 スーパージェットです。その年にストッククラスのチャンピオンになって、翌年A級に上がりました。

WJS SX-Rには、いつ乗り換えたのですか?
佐々木 SX-Rが出た2017年ですね。そのときはまだ、スーパージェットで勝てると思ったんですが、途中でSX-Rに乗り換えることになりました。

WJS スーパージェットでは無理だったのですか?
佐々木 いや、シーズン開幕戦の朝までは、「俺は絶対にイケる」と思っていました。自分のボートに自信もあったし、練習もしてきましたから。その前の年も、マシンさえ壊れなければ勝てていたはずなので……。まわりの人には負けると思わなかったんです。

WJS マシンも自分もいけると思って迎えた開幕戦はどうでしたか?
佐々木 スタートして、1ブイに着く前に全部のSX-Rに抜かれちゃいました(笑)。

WJS それはショックですよね。
佐々木 走ってる最中、「何で俺が……」ってなるじゃないですか。開幕戦が終わった後、スポンサーの方から、「もう乗り換えろ」「諦めろ」って言われてしまって。でも、そんなの納得がいかない。「もう1回だけ、スーパージェットでやらせてくれ」って。負けるわけがないと思っていたヤツらの後ろを走った自分が許せなくて、このまま負けたままでいけないって思った。「次戦の蒲郡では絶対に勝ちますから」ってお願いして、第2戦に挑んだんです。

WJS 第2戦もスーパージェットで出場したわけですね。結果はどうでしたか?
佐々木 スタートでドンと前に出て、横を見たら誰もいない。「やった、ホールショットだ!」と思っていたら、また1ブイの手前で全員に抜かれたんですよ。僕のこの気持ち、分かりますか?

WJS でも佐々木プロは、SX-Rに乗るプロライダーの方と一緒に練習をしていますよね。練習のときに、スーパージェットでは分が悪いとは思わなかったのですか?
佐々木 僕の練習している平塚は、1ブイまでの距離が短い。「ヨーイ、スタート」ってやっても、SX-Rの最高速に到達する前に、もうスーパージェットは最高速に達している。だから、1ブイも取れるしトップを走れる。「絶対にいける」って思っちゃったんですよね。

WJS 本番のレース会場では、SX-Rが最高速に達した後に1ブイがあるから、負けてしまうのですね。
佐々木 そうです。

WJS それでSX-Rに乗り換えたのですか?
佐々木 これじゃなきゃ、スタートラインに立てないって思ったんで、第4戦目からSX-Rに乗り換えました。

WJS 結果はどうでした?
佐々木 どうにかマシンに慣れようと思いながら、レースをするだけでした。とりあえず、翌年からプロクラスに上がれる成績は残せました。でも、やっぱりSX-Rだと練習が面白くなかった……。

運命の出会い「コマンダーGP1」。結婚でいうと、写真だけで決めて、結婚式会場で初めて会ったようなもの。

動画を見ただけで、試乗もせずに購入を決めた「コマンダーGP1」

WJS なぜ、コマンダーのGP1を買おうと思ったのですか?
佐々木 はい。きっかけは、2017年のワールドファイナルで、プロフォースのマシンを借りてレースに出たとき、「アフターパーツメーカーのコンプリートマシンは乗りやすい」というのを理解していたことです。でもプロフォースには、すごく良い部分と、嫌な部分がある。水面条件が良ければ最強マシンだと思いますけど、僕の乗り方では、引き波や水面の荒れ具合でフロント部分が水に潜ってしまうことがあった。これが嫌でたまらなかったんです。実は、コマンダーのマシンに興味を持ったのも、そのときでした。確かあのときに勝ったのは、ブレット(BULLETT)に乗るジェレミー・ポレットでしたが、レース内容は誰が見ても、コマンダーに乗るクエンティン・ボッシュのほうが速かった。ハルとかも見て、「ああ、GP1っていいな」って思ったんですけど、クエンティンのマシンはターボだったんで、「ターボは、パワーがありすぎて、俺には乗れないだろうな」って。そして、「ターボは壊れる」というイメージが強かったんですよね。だから迷っていました。

WJS 素人的にはブレットのほうがスーパージェットに近い感じがするのですが、そうじゃないのですか?
佐々木 じゃないですね。GP1のほうがスーパージェットに近いような感じがした。僕好みの形で格好いい。

WJS いつ、購入しようと決めたのですか?
佐々木 2018年のシーズンが始まるけど、SX-Rだからレースも面白くない、もちろん練習も面白くない。自分のなかで、何かないかと探していたんですよ。そのころ、モツ(モツリス氏)が、フェイスブックでコマンダーのテストの様子をアップしていたので、それでコンタクトを取り、少しずついろいろな質問をしていきました。でも「やっぱり、ターボなんて乗れないよな」って思っていたところ、モツがSX-Rの1,500ccエンジンをGP1のハルに搭載したマシンのテスト風景をアップしていたんです。それで、「速度的にどれくらい出るか」って聞いたら、「ターボなら127km/h出るけど、純正ノーマルのSX-Rエンジンでも108km/hくらい出る」って言われました。

WJS ターボエンジンとノーマルエンジンの最高速が20km/h差もあったら、ターボを買おうとは思わなかったのですか?
佐々木 壊れるリスクを考えたらターボは難しい。それより、SX-Rのエンジンを載せたGP1のほうが面白そうだなと思って。自分の頭の中の想像だけで決めました。

WJS 1度も試乗せずに決めたのですか?
佐々木 はい。動画は見ましたけど、1回も乗らないで(笑)。ダメだったら、ダメでいいやって。賭けですよね。モツの「こうなるぞ」っていう言葉だけを信用して。多分、イケるだろうなと思って。

WJS 初めてGP1に乗ったのはいつですか?
佐々木 マシンを注文したのが2018年の7月くらい。10月にワールドファイナルのためにアメリカに行って、ハバスに行く前にコマンダーに寄ってマシンを受け取って、コマンダーの近くの湖で初めてGP1に乗りました。

WJS 初めてのGP1はどうでしたか?
佐々木 「あっ、乗りやすいじゃん。乗れる、乗れる」って。SX-Rよりも、全然、乗りやすいと思いました。いろいろ変えなきゃいけないところもあるけど、これなら自分好みの船になると思いました。

WJS それで、ワールドファイナルに出たんですよね?
佐々木 はい。ベテランズとエキスパートクラスに出ました。というよりも、そのマシンで出られるクラスが、ベテランズとエキスパートとプロスキーしかなかったんです。

WJS スキークラスの最高峰であるプロスキークラスに出ようとは思わなかったんですか?
佐々木 全然。そこは目指してない。一応、自分のことは理解しているつもりなんで(笑)。クエンティンとかモツとかと同等に戦えるかって言われたら、僕は全然そんなこと思ってない。多分、あのレベルは全然違うと思います。

WJS 初めて乗ったマシンでの結果はいかがでしたか?
佐々木 エキスパートクラスは8番か9番くらい、ベテランズは3位でインスペクションを受けたんですけど、失格になりました。GP1にSX-Rの1500エンジンを積んでいたマシンは、僕のが初めてで、レギュレーション的にダメだったんです。エキスパートモディファイはOKでした。

レースでも勝てるポテンシャルはあるし、レジャーで乗っても楽しい艇

WJS 今年のワールドファイナルは、また新しいGP1で出場されていましたよね。現在、GP1を2台お持ちということですか?
佐々木 12月のキングスカップに出ようと思ったんですが、ワールドファイナルが終わってからマシンを送ったのでは間に合わない。送るには、2台必要だったんです。今年も予備艇も含めて2台態勢でした。1台がGP1、もう1台が予備艇のSX-Rです。レースのとき、波が出たらSX-Rに変えればいいやっていう、保険みたいなもので持っていたんです。GP1はいい船ですが、反面、波に弱い、海が辛いと思っていた。でも、結果的にそれが、自分の成長を妨げる原因でもあったんで、SX-Rは処分しました。でも、GP1だけではどうしようもないときが出てくる。キングスカップも行くし、じゃあ、もう1台用意しようと思って注文しました。

WJS 佐々木プロからみて、コマンダーのマシンは、何がいいのですか?
佐々木 一言でいえば、レースボートでありながら、普通の人も楽しく乗れる。レジャーも乗りやすい。尖がってないんです。ブレットは、極端な話、アクセル離したら飛んでいっちゃう、緩めたらふらふらする船って、普通のレジャーさんは乗れないと思うんですよ。

WJS 今年1年間、GP1で国内戦を戦いましたが、いかがでしたか?
佐々木 レース自体は勝ててないですけど、すごくいい方向に行ったと思います。GP1を良くする方法、良くする方法って試しながらやってたし、楽しめたシーズンですね。来年につながる1年でした。

WJS 新しいコマンダーGP1と、国内戦で1年間戦ったマシンスペックは同じですか?
佐々木 エンジンスペックは一緒です。でも、エンジンの搭載位置とか、細かいところは変えました。

WJS どっちのほうが乗りやすいですか?
佐々木 うーん、言うほど差はないですけどね。でも、僕、すごく不器用なんです。人によっては、初めて乗った船でも、レンタルボートでも、何でも器用に乗れる人っているでしょ。僕はそれができない。何が違和感があると、「あれ、乗れない? 乗れない」ってなっちゃう。それがあったんで、ハバスに入って3日、4日目くらいの練習では、「これじゃ乗れない」って言ってたら、藤井さんが、僕のリクエストを聞いて、ああしたらどうだ、こうしたらどうだって直してくれて、乗れるようになってきました。

WJS 佐々木プロにとって、GP1が合っているということですね。
佐々木 そうですね。僕、これで「塗装業界最速」になりました(笑)。僕が一番速い(笑)。

レーシーでアメリカンなマシンカラーリング

2017年のワールドファイナルの会場で初めて乗って、その年の年末に日本に届いた「佐々木1号艇」。

今年(2018年)のワールドファイナルで、世界一になった「佐々木2号艇」。

自分の思い通りのデザインで作ってもらったステッカー

WJS 新しいマシンのカラーリングも素敵ですが、これはコマンダーのカラーリングですか?
佐々木 いや、これはこういうふうにしてくれって、全部、僕がデザインを指定しました。ラメも含めて全部です。

WJS 佐々木プロはプロのペインターでもありますから、本来なら、ご自身でペイントするわけですよね。でも、ワールドファイナルのときにマシンを受け取るわけですから、ステッカーチューンになると思うのですが、ご自分で塗るのと変わらない仕上がりですか?
佐々木 まあ、もちろんペイントとステッカーでは仕上がりの美しさは違いますが、自分が思い描いたデザインにはなったと思います。近くで見ると分かりますが、遠目で走っているところを見たら、ペイントかステッカーか分からないですからね(笑)。

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