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日本パワーボート協会物語 Ver.2 日本のパワーボートの中枢・小嶋松久会長に聞く「パワーボートの現在」  ジェットスキー(水上バイク)

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パワーボートの発展に「人生を懸ける」ということ

前回、「パワーボート」という競技について説明をしました。パワーボートは、「海のF1(エフ・ワン)」とも呼ばれているスポーツで、マシンによっては最高速度200km/hを超えるものもあるという、大変、迫力のあるレースです。

パワーボートを語る上で、欠かせない人物がいます。それは、現日本パワーボート協会会長の小嶋松久氏です。
氏は、戦後間もないモータースポーツの黎明期からレースに参戦していた生粋のレース人。2008年に、日本パワーボート協会(JPBA)が設立され、会長に就任。さらに、日本で唯一の世界連盟(UIM)加盟協会会長として活動しています。

レース会場でも、常に先陣を切って働く姿しか見たことがありません。パワーボートの発展と後進の育成に尽力したいと語る小嶋会長に、今回、ロングインタービューをお願いしました。

【前回の記事】 日本パワーボート協会物語 Ver.1「パワーボート」という競技を知っていますか?

レース中、小嶋松久氏は双眼鏡を手に、常に水面に気を配っている。(2019年小豆島で行われた「日本グランプリパワーボートレース」にて)

トップが率先して動く姿を見て、後進が育つ

日本パワーボート協会・小嶋松久会長に聞く、「パワーボート」を発展させたいという強い気持ち

WJS パワーボートレースの会場にいると、いつも忙しそうに会場中を走り回っている小嶋会長の姿しか見たことがありません。立場的には、椅子に座ってふんぞり返っていてもおかしくはないと思うのですが、ずっと働いています。やはり、トップに立つ人が人一倍働くことで、人は付いて来るのでしょうね?
小嶋 うーん……、どうなんやろね。時代も違うしね。私も、オートバイ、クルマ、そしてパワーボートと、約60年に渡ってレースの世界に身を置いています。幸い、大きな事故や死亡事故もなく来ました。過去を振り返っても、皆が付いて来てくれんようでは、楽しい世界とは言えませんからね。

WJS インターネットで「日本パワーボート協会」を調べると、今から12年前の2008年に発足したとあります。でも、もっと以前からレースをされていますよね? 例えば、1990年代に熱海で行われた熱海オーシャンカップには、ヘリコプターでやってきて参戦する人もいたとか、とんでもなく高額なボートがたくさん走っていたといった逸話を聞きます。そのパワーボート歴史が、12年どころではないはずです。最初に、パワーボートの歴史を教えていただけますか?
小嶋 昔は笹川良一会長、それから息子さんの笹川 堯(たかし)会長、そして今は、僕が預かっているような感じやね。

WJS それまでは、笹川一族の関係者が、ずっとトップだったのですね。
小嶋 そうです。歴代競艇関係の方が代表でした。外部でやったのは僕が初めてです。

年間で、億の金が動く世界

WJS パワーボートのレースをするには、莫大な資金が必要というイメージがあるのですが、実際はどうなのですか?
小嶋 昔はスポンサーに頼らなくても自分たち資金で開催することができました。個人で力を持っている方もたくさんいました。でも今の時代は、企業でも組織でも「ワンマン」というものに限界があります。もちろん、昔からいろいろな人たちに協力はしていただきましたが、今とは桁が違います。

WJS 時代が急激に変化していくなかで、それに対応する組織作りが必要だったということですか?
小嶋 資金的な部分は大きいです。新たな組織作りを行い、一般のスポンサーを集め、今まで以上に努力を積み重ねて、何とかやっているという感じです。だから、親方日の丸で「金は出すから、お前らヤレ」なんて絶対、言えません。時代も変わるので、そういうスタイルでやっていける仲間を増やしていかなければいけませんね。

WJS 確かに、他に2つとない団体ですね。
小嶋 パワーボートと、クルマやバイクのレースの一番の違いは、今、現役で走っている選手が競技をやめたら、そのあとが残ってくれるか分からないことです。競技人口の減少という問題は、いろいろな面で、安全に楽しくレースを続けて行くという実務の負担を増やします。そうなると、残っている我々にさまざま負担がかかってくる。だからこそ、早く運営側の人を育てたいのです。

WJS 笹川良一会長がいらっしゃったころは、ものすごい額のお金をかけてレースをしていたそうですね。非常に高額のボートが走っていたとか、レーサーがヘリでレース会場に来ていたなどと聞いていたのですが、その当時と比べて、今はレースにはお金がかからなくなったのですか?
小嶋 かからなくなったのではなく、「かけれらなく」なった。それは世界的にも同じです。アメリカでもヨーロッパでも、1基1,000万円のエンジンを、2基ないし4基搭載して走っていました。それをワンレースで壊してしまうこともしょっちゅう。F1でもそうですが、それではレースが続かない。せめて1年間、10~12レースはエンジンをもたせられないと続かないんです。

WJS 世界的にそういった傾向なのですか?
小嶋 はい。だから、新品かオーバーホール済みのエンジンであれば、ワンシーズンは持たせれるようなレギュレーションと環境作りに取り組んできました。そういう意味では、昔に比べて多少のコストダウンにはなっているかもしれません。

WJS 時代に合わせて、柔軟に変えていく必要があったわけですね?
小嶋 そうです。「一つのメーカーが手を引いたら、レースができなくなる」ではダメなんです。自分たちでスポンサーを獲得してレースをやろうとか、お金のかからない環境で1年間戦えるようなシステム作りに、各チームが取り組んでいかなければいけない時代になってきていると思います。

WJS そう思います。そういった環境作りは、レースを主催運営する側が取り組まないとできないことですね。
小嶋 どこかのチームが、金をかけたから勝ったという事実があったら、「もっと金をかけないと勝てない」となる。そうやって、どんどんエスカレートしていきます。そうではなくて、レギュレーションやコース作りにおいても、「金をかけても勝てるわけではない」という環境作りが大切なんです。

WJS コースセッティングでも、随分、変わるのですか?
小嶋 昔は、直線の距離も長くてコース自体が広かった。安全にレースをしようと思えば、敏速にレスキューするためヘリコプターも必要ということでヘリも買ったし、レスキュー用のダイバーも常駐させておくことになる。そうこうしているうちに、ドンドン経費が膨れ上がります。

WJS 費用がかかっても、安全対策が最重要課題なのですね?
小嶋 そうです。当事者は、まだ自分で納得している部分があるのでエエんですが、残された家族や関係者はそれではすまない。もちろん、危険なことをしているのだけれども、そのなかで、いかに安全を確保出来るかは常に大きな課題です。

レースを運営するうえで、最も大切なのか「環境作り」だと小嶋会長は言う。

事故がなく、1人でも多くの選手が喜んでくれるような大会にすることが一番大事です

WJS 先ほどのエンジンの話ですが、1基1,000万円のエンジンを4基使ってワンレースで破損というなら、年間で一体いくらかかるのですか?
小嶋 1,000万円のエンジンが壊れても、半分は大丈夫なんです。アメリカに航空便で送り返してオーバーホールする。壊れた部品は、全部、新品になって戻ってきます。その輸送代とオーバーホールの代金が500万円くらい。フルのオーバーホールをしたエンジンを「フレッシュエンジン」と言いますが、僕らは最初、フレッシュエンジンのことを新品だと思っていたぐらいなんです。マニホールド、エンジンブロック、まわりの補機類くらいが中古で、あとの部品はすべてが新品。だから、新品のエンジンと性能は同等。ちなみにエンジンは、半額では売れます。

WJS お金がかからないように、そういうエンジンを使いながらやりくりしていたということですか?
小嶋 あの当時は3~4レースを同一エンジンで戦っていました。それでも勝ち続けたいので、アメリカからバリバリ本場のスロットルマン(エンジンの制御を担う役割)を呼んできて戦っていました。勉強しなければならないと思っていたので、惜しくはなかったですね。1年間の4レースで年間1億円ぐらい使っていました。

WJS 1年間で1億円と仰いますが、小嶋会長は、何十年もずっとレースを続けてきたわけですから、トータルするとすごい金額になりますよね?
小嶋 それでも、自動車のレースよりは少ないと思いますよ。

WJS 当時はスポンサーもつけず、個人でやっていたわけですよね?
小嶋 まあ、その分仕事もね。頑張らなあかん時代でした。

WJS それだけ私財を投じても、パワーボートを続けてきた魅力とは何なんですか?
小嶋 パワーボートのカテゴリーで排気量が550cc以下の「550」というクラスがあります。お金があまりかからないということで、我々が言い出してできたクラスです。このクラスの普及に努める義務がありますし、尽力もします。でも、それ以外のクラスは勝ちたいです。

WJS やる以上は勝ちたいのですね?
小嶋 走る以上勝ちたい。でも、そうなれば自然とお金はかかります。負けたらガッカリする人がおるけれど、レースは勝っても負けてもね。昔から同じ。宴会をして発散しようかって決めてやっている。これは何十年も前のクルマやバイクのときからそうなんです。それが僕のモットー。その代わり、負けた原因を追求して「次回はこの失敗をしないようにしような、ええ勉強になったな」って。コレを50年も60年も続けているから。

WJS 小嶋会長は、いつからレースをされているのですか?
小嶋 15歳、16歳のころから、バイクのレースをしていました。レースをやる以上、勝ちたいという姿勢でずっとやってきた。もちろん、自分のチームに勝ってはほしい。でもそれ以上に、事故のない、1人でも多くの選手が喜んでくれるような大会にすることのほうが大事です。競技者も、ギャラリーも1人でも多く見に来て欲しい。それが、今の大会主催者と、自分が現役で走っている違いやね。

次の世代が頑張ってやっていけるように、若い人たちに出来るだけたくさんのことを伝えていきたい

WJS 自分のチームが勝つことだけでなく、大会が盛り上がる方が大切なのですね?
小嶋 自分が「勝って嬉しい」と喜ぶだけではダメです。それは簡単なことだけど、それよりも「自分が身を置いている世界」が「仲間が増えて繁栄していく」ことのほうが肝心だと思います。それをテーマにずっとやってきたし、これからもやっていく。その程度のことです。

WJS だから、現在はパワーボートの発展に尽力されているのですね?
小嶋 はい。これだけ長いレース人生。楽しいこともたくさんありました。でも、あと何年できるか分からない。だから、次の世代が頑張ってやっていけるように、若い人たちに出来るだけたくさんのことを伝えていきたいと考えています。ふんぞり返っている場合ではありません。今のコロナ禍も含めて、本当に大変な時代と状況です。少しでも早く、若い人たちが育ってもらいたい。そうでないと、続けていけない状況なんです。

WJS 小嶋会長は、今、おいくつですか?
小嶋 75歳、もうすぐ76歳になります。
WJS 会長を見ていると、格好いい大人のサンプルだと思います。目的がある人は歳を取りませんね。なれるものなら、会長のように年齢を重ねたいです。

写真左から、紅矢俊栄氏、小嶋松久氏、中地淳一氏。


「最新記事」モータースポーツに人生を捧げた男、小嶋松久氏の青春「ワールドジェットスポーツマガジン 2022年1月号」

【前回の記事】日本パワーボート協会物語 Ver.1「パワーボート」という競技を知っていますか?
 
【次回の記事】日本パワーボート協会物語 Ver.3 日本人で初めてF1マシンを作った男・小嶋松久氏
※「日本パワーボート協会物語」は、現在、下記の第4回まで連載中です
日本パワーボート協会物語 Ver.1「パワーボート」という競技を知っていますか?
日本パワーボート協会物語 Ver.2 日本のパワーボートの中枢・小嶋松久会長に聞く「パワーボートの現在」
日本パワーボート協会物語 Ver.3 日本人で初めてF1マシンを作った男・小嶋松久氏
日本パワーボート協会物語 Ver.4 パワーボートのトレンドを牽引してきた小嶋松久氏

※国産初のF1「KE007」が富士スピードウェイを走った日は、現在、下記の第3回まで連載中です
国産初のF1「KE007」が富士スピードウェイを走った日 コジマエンジニアリング・小嶋松久氏が語る Vol.1
国産初のF1「KE007」が富士スピードウェイを走った日 コジマエンジニアリング・小嶋松久氏が語る Vol.2
国産初のF1「KE007」が富士スピードウェイを走った日 コジマエンジニアリング・小嶋松久氏が語る Vol.3

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